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岩根圀和『物語 スペインの歴史』


テンポの良い読みやすい一冊。およそ15世紀から17世紀、スペインの黄金時代を中心に、その歴史の一コマを物語調で書いている。扱われるテーマは、スペインの歴史の有名なポイント。イスラムによるイベリア半島侵攻、キリスト教徒による国土回復運動、レパントの海戦、地中海のイスラム海賊に拿捕されて捕虜となったセルバンテス、スペイン無敵艦隊とイギリスとの海戦。最後には第二次世界大戦後のスペインとして、国民的詩人ガルシア・ロルカの処刑、フランコ死去による王政復古、そしてETAによるテロ活動が扱われている。最後の章はやや散発的でまとまりを欠く。

イスラム侵攻については、イベリア半島側からも歓迎の向きがあったというバランスの取れた記述がみられる。476年に西ローマ帝国が滅亡した後にイベリア半島を治めた西ゴート族は、8世紀になると王位継承をめぐって内紛を悪化させる。王座をめぐる貴族間の党派争いで国内は疲弊していく。イベリア半島からアフリカに難民として脱出する者も多くみられた。イスラムのイベリア半島侵攻は、庶民にとっては救い主としての見方もあったとのこと(p.6-9)。

国土回復運動、レコンキスタについてはもちろんグラナダ開城をめぐる経緯を描く。コロンブスの新大陸への出航は、このグラナダ開城を待って落ち着くのを待たされていた。とはいえ著者の記述の多くはレコンキスタの経緯というよりは、それに伴う、あるいはその後のイスラム教徒とユダヤ教徒への迫害に充てられている。レコンキスタはイスラム教徒との戦いではあるが、キリスト教としての統合の過程でユダヤ教徒も排除されることになる。ユダヤ教徒の追放令は1492年に出ており、これはイスラム教徒の追放令の1609年より早い。いくつかの理由は推測されているが、なぜユダヤ人追放を急いだかの理由は明確でないという(p.67)。そして異端審問所の恐ろしさが、異端と断定された人への残忍な処置の様子とともに描かれる。その筆致はなかなかリアル。この異端審問所はほとんど秘密警察である(p.68-77, 80-92)。

レパントの海戦は司令官ドン・フアン・デ・アウストゥリアを中心に、セルバンテスを副として描かれる。海戦線に至るまでの経緯が簡潔に描かれ、海鮮そのものの様子はまるで戦場を俯瞰する記録者がいたかのように細かく書かれている。ドン・フアンの主力部隊、ドーリア率いる部隊、セルバンテスの属する部隊の動きが追われ、鮮やか筆致といえる。著者はセルバンテスを中心とする文学研究者のため、いきおい詳細な記述となる。

レパントの海戦の後、スペインに戻ろうしたセルバンテスはイスラムの海賊に拿捕され、アルジェで5年に及ぶ捕虜生活を送る。最終的には身代金との引き換えに開放されるのだが、それまでに4回にもわたる脱走計画を企てる。よくぞ処刑されなかったものだ。この過程もなかなかリアルで、ドラマを見るよう。

ハイライトの最後はスペイン無敵艦隊について。とはいえ、対イギリス海戦の敗北について。そもそも無敵艦隊の出航前に1587年、ドレイクがカディス港を襲ったことが大きな痛手となる。出港準備を済ませていた艦隊や補給物資が失われただけでなく、食糧貯蔵用の樽を製造するための板材が濡れたことが挙げられている(p.209)。急ごしらえの生乾きの板材で作られた樽は、水を腐敗させ食糧をカビさせた。このことが後の海戦で不利となる。補給物資の再調達にあたる官吏として、スペインに戻ってきたセルバンテスが登場する。無敵艦隊を率いたシドニア公爵は歴史的に不評。著者の評価は、シドニア公はカレーでパルマ公の軍勢との合流を待っていたゆえの、イギリス艦隊を直接攻撃しなかった行動とみている。この海戦の様子の描写もなかなか面白く、著者は戦闘シーンを描くのがうまいと見える。
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グザヴィエ・バラル・イ・アルテ『サンティアゴ・デ・コンポステーラと巡礼の道』


サンティヤゴ巡礼について、多くの写真を載せて書かれたとても読みやすい一冊。巡礼者を描いた多くの彫刻や絵画、また教会建築などが写真付きで載っている。著者は中世美術史に明るい。サンティアゴにおけるヤコブ信仰の起こり、巡礼路としての成立、巡礼路の教会や修道院、そして目的地サンティアゴ・デ・コンポステーラについて扱われている。

イエスの弟子ヤコブがサンティアゴに埋葬されているという伝説は古くからあった。9世紀初頭にペラギヌスが「ヤコブの墓」を発見したとされ、アルフォンソ2世によって教会がコンポステラに建てられる。おりしもレコンキスタの最中、ヤコブはキリスト教徒を イスラム教徒から守る守護聖人であるという考えと結びつく。モーロ人殺しのヤコブ、サンティアゴ・マタモーロス(p.20-25)。

おりしもイスラム教徒のヨーロッパ侵攻により、エルサレムはおろかローマまでも巡礼に赴くのは難しくなってきていた。そこでサンティアゴが巡礼地として定着し始める。ところでイスラム教徒にとってメッカに巡礼することは信者としての義務であって、メッカ巡礼を行わないイスラム教徒はアラーの天国に入ることができない。一方、キリスト教徒にとって巡礼は天国に入る一つの方法ではあるが、あくまで熟慮に基づく自発的な行為である。行き先や時期も自分で決めることができる(p.30f)。巡礼については、イスラム教とキリスト教で大きな考え方の違いがある。

サンティアゴへの巡礼は、10世紀になってフランスからの巡礼者が増える。13世紀から15世紀までが巡礼の栄光の時代と言える。15世紀になると巡礼に対する懐疑的な考えが次第に広がり、16世紀後半には宗教改革によってその懐疑は頂点に達した。この後、巡礼はルネサンス期から19世紀まで長期にわたって衰れることになった(p.78)。しかしサンティアゴは再び巡礼地として注目を浴び、世界遺産への登録(1993年)に極まり、多いときは月当たり5万人を超える人が訪れる。

小さな手軽な本であり、図表が多く見ていて楽しい。聖ヤコブの日にサンティアゴ大聖堂前の広場を埋め尽くす人の写真は特に圧巻だ。

ゴードン・リノフ、マイケル・ベリー『データマイニング手法 3訂版 予測・スコアリング編』


マーケティング系の事例を盛り込んで、データマイニングの手法を解説したもの。データ分析の一般的な流れを扱った章の後、決定木、ニューラルネット、k最近傍法、生存分析の4つの手法について、その概要と顧客分析での実例が書かれている。実例というよりは手法によった解説がメイン。もう少し事例の話が聞けるとよかった。解説の内容はあまり数式は出てこない。直感的な説明を心がけている。

面白かった事例としては、追加反応モデル(単純にキャンペーンに反応するかどうかではなく、キャンペーンが反応確率を増すかどうかの予測)でUplift Optimizerという決定木系のソフトウェアを用いて住宅担保ローンのクロスセルを改善したU.S.バンクの話(p.81-85)。同じく決定木でコーヒー焙煎機のシミュレーションを行ったネスレの事例。これは30秒後の各変数を目的変数とする多数のモデルを作成している(p.102-105)。さらに、相互情報量を距離としてk近傍法を適用した、マンモグラフィの異常発見の話(p.172-176)が興味深かった。

いままできちんと触れたことがなかったので参考になった記述として、ネットワークモデルとしてRBF(Radial Basis Function)モデル。RBFは多層パーセプトロンと並ぶニューラルネットのモデルとして紹介されている(p.134-139)。この説明だけだと概要をつかむのはやや苦労する。ちなみに本の執筆は2014年だが、ディープラーニングの話はまったく出てこない。

生存分析は概要や、コックスの比例ハザードモデルの話、また顧客分析への適用とてもよく書けていて参考になった。生存曲線はパラメトリックには分析できないという話(p.215-217, 234)が書いてあるのが目に留まる。経験則から来ているようだ。

レーモン・ウルセル『中世の巡礼者たち』


やや詩的な文体で、サンティアゴ・デ・コンポステーラをはじめとする中世の巡礼について記した本。中世において巡礼が果たした一般的な役割から、巡礼路の様子、『サンティヤゴ巡礼の案内』という12世紀の有名な本、そして巡礼路にある教会について書かれる。

著者は中世の美術史・建築史に造詣が深い。主にフランス南部のロマネスク様式の教会建築について、細かく書かれている。とはいえ、教会一つ一つの建築様式を文字だけで追うのはかなり苦しい。

詩的な文章ゆえにか、論旨を論理的に追うのに困難を覚えた。散文調にバラバラと扱われる話題は、何を著者が書こうとしているのかを見失う。教会建築のところは、一つ一つ丁寧に扱っているので読みやすい。この本は評価が高く、歴史的想像力によって中世の日常的な世界を生き生きと描き出しているのだという。私にはそんな印象はまったくなかった。

大湾秀雄『日本の人事を科学する』


人事経済学や組織経済学の観点から、人事領域においてどのようなデータ活用が可能を書いた本。著者の主催する人事情報活用研究会で、各企業が実際に自社内の人事データを分析した事例が多数載っている。人事分野はHRtechとして徐々に盛り上がりつつはあるが、データ分析からは遠い世界になっている。こうした状況で、人事分野で何ができるかをかなり具体的に書いており、参考になる一冊。

人事のデータ活用が遅れている理由として著者は以下の理由を挙げている。人事部の人は文系が多く、統計リテラシーが低い。人的資源管理論は定性的な議論が主になっている。日本の企業では新卒採用の画一的プロセスが主だったため、経験や勘がさほど大きな間違いを生んでこなかった(p.21f)。それ以外にも、人事領域は人によって人を判断する定性的な判断、あまり客観的ではない判断が散見されていて、教師ラベルをきちんと定義するのが難しいこと。データそのものが個人情報なので外部にはなかなか分析を委託できないが、かといって内部ではその分析する当該の人や関係者がまさにデータに含まれてしまっていること、などもあるだろう。だが企業の人事データには統計資料にはない個人レベルの情報が豊富。これを活かさない手はないだろう(p.39)。

そのため、導入部のあとの第二章ではデータ分析のやり方について概観している。本書で扱う手法は多変量回帰分析のみ。データ件数も500件程度がよく見られる。大量のデータを用いた非線形モデルでの機械学習などは本書の範囲外。まずは読者のレベルを想定して線形モデルの範囲内にとどめたのだろう。とはいえレベルは低くはない。例えば単純に男女での差を比較するのではなく、勤続年数や出身大学などの特徴量を説明変数として入れてコントロールすることの必要性を始め、統計的因果推論の考えが多く用いられている。それ以外にも線形回帰モデルを重視する理由としては、一つ一つの要因が目的変数に与える効果が偏回帰係数から分かり、費用対効果の高い施策を選択できるというのも挙げられる(p.180)。要は説明力と予測力のバランス。

扱われている話題は、男性と女性の賃金や管理職昇進スピードについて、長時間労働や育休取得の働き方改革、優秀な人材の採用、年功賃金と離職の防止、中間管理職の生産性と貢献度の測定、定年延長と介護離職について。こうした問題について、社内で取っている施策が果たして効果を生んでいるのかどうかをどのように測定・評価すればいいかが論じられる。人事領域の施策は、何かを目指して整備実行したとしても、結果測定をしていないケースが驚くほどある。

人事領域においても基本的にはA/Bテスト、あるいはランダム化比較試験(RCT)がなされるべきだろう。たしかにRCTは施策を受けられる人と受けられない人の不平等が発生する。しかし施策が良ければ、それは広範囲に展開されるのだから、結局のところ施策の利益を受けるのは全員だ。不確実性の高い施策を一気に実行して、損害や混乱を招くリスクを負うよりはマシではないか。例えば働き方改革において、働き方の改善に向けた研修や施策の対象者を応募すると、もともとそれに関心のある人が参加してきて対象者にバイアスが生まれる内生性の問題がある。在宅勤務の有効性を実験で検証したCtripの例は、とても示唆にあふれる(p.125-130)。

定年延長と介護離職の問題は、自分の関心から外れていることもあるが、企業内のデータ分析というより、政府統計を使ったかなり一般的な話に終始している(p.211-231)。多変量回帰分析もこの章では出てこない。

私の関心からは採用施策が面白かった。著者は企業の採用力を3つに分けている。企業知名度を上げ必要な人材に自社を知ってもらう採用マーケティング力、多くの企業の中から自社を選んで応募してもらう採用差別力、応募者の中から自社に必要な人材を正しく選択するスクリーニング力。採用施策の分析にあたっては、この3つの力に分けてそれぞれ分析することが有効。多変量回帰による分析では、社会全体の就職内定率を説明変数とした回帰式の偏回帰係数から見ることができる(ただし性別、勤続年数、職種など多くの説明変数を入れて影響をコントロールする)。つまり、採用人材の入社後の評価を目的変数としたときの就職内定率の偏回帰係数が負であれば、内定率が上がるにつれ優秀でない人材が集まっているということであり、採用マーケティング力と採用差別化が弱いことがうかがえる。離職率を目的変数としたときに就職内定率の偏回帰係数が負なら、不況で内定率が下がったときに採用はできても不本意に採用された人材が多くなるということであり、採用差別化とスクリーニング力がないことがうかがえる(p.142-148)。ただし採用においては、採用後の評価は(当たり前ながら)採用人材に対してしか存在しないので、サンプルバイアスがあることに何度も注意が向けられる。

採用についてはいくつか面白い研究結果がある。面接結果と入社後のパフォーマンスはあまり関係ないこと。応募者に何を聞くかを面接者に任せるのではなく、定型的な質問を全応募者に問うのが良いこと。学校の成績による入社後の評価への影響は入社後3年程度で消えること。

入門的な本なのでレベルが抑えられているのが私には物足りないが、人事領域でのデータ分析の本として参照できる良い本。この領域でもどんどん普及して、非客観的な人事評価を追いやってほしい。
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