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ウゴ・パガロ『ロボット法』


ロボットがもたらす法的問題について、法哲学の立場から詳細に検討を行った一冊。ロボットといっても様々なものがある。ロボットの応用は極めて多様であり、規範的課題を検討するうえで一般化をすると失敗する(p.xiv)。本書で検討されるのはドローンや自律型致死兵器システム(LAWS)から、外科手術ロボットであるダヴィンチ、自動運転、金融トレードロボット、NAOやAIBOのようなペットロボットなど。

本書ではこれら様々なロボットを、刑法、契約、不法行為法の三つの分野で検討する。ドローンや自律兵器は国際人道法や刑法に関わり、ダヴィンチのようなものは契約上の義務や厳格責任ルールに関わる。ロボット以外の普通の場合に各国が取っている法制度を検討し、その背後にある考えがロボットの場合に適用できるのかを検討している。

結論として、ロボットの登場によって私たちの法システムが脅かされるような事態は起こっていない。刑法、民法、不法行為法のどれにおいても、法律家はロボットの責任にどう対応するか一般的に合意している。法的因果関係の失敗など存在しない(p.215)。ロボットの設計、製造、利用をいかに法制度で規律すべきかには、比較的強い意見の一致がいまだに存在する。ロボット技術の応用が投げかける法への挑戦は、まだ現在の法の領域で代替的解決が存在する。しかし、対応できなくなってきていることも確かだ(p.xiv-xvii)。

ますます増えるロボットが提示する法的問題を扱うために、法はロボットが行う新しいタイプの行動を受け入れる準備をすべき。これは人間とも動物とも違うタイプの行動をする(p.41)。ロボットは行動し学習するので、ロボットによる危害は欠陥製品のようには考えられない。とはいえ、法的因果関係の失敗があるため、動物とも類比的に考えられない(p.81)。ロボットはツールというよりローマ時代の奴隷としてその行為者性を考え、契約主体として扱うアプローチも検討に値する(p.112-123)。

本書ではロボットを巡る法的問題を、3つの法的観念と3つのケースの種類で、合計9つの法的責任のタイプに分けて検討する。ロボットに法的に人格が認められるか、ロボットは権利と義務を持つ適格な行為者であるか、他の行為者に対する責任の担い手でありうるかという3つの観念と、免責がなされる条件、責任の及ぶ範囲、賠償責任の3つのケース(p.14-16)。

全般的にかなりの直訳調で、とても読みにくい。往年のドイツ観念論の翻訳のようだ。また登場する法哲学の概念や、固有名詞について何の訳注もないため、そのままでは何の話をしているのか不明な箇所も数多い。専門家のための一冊だろう。
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高安美佐子編『ソーシャルメディアの経済物理学』


ソーシャルメディア、おもにブログを用いて様々な分析を行う試み。電通と東京工業大学の高安研究室が、消費者のソーシャルメディア上の行動を理解すべく共同研究を行った結果をまとめたもの。第5章まであるが、メインで面白いのは実際にブログデータを分析している第3章のみ。第1章は導入で、統計物理学の考えを応用する形で経済物理学がどう立ち上がってきたかを述べる。第2章はブログデータをどうクローリングして、形態素解析してスパムを除くなどの前処理の過程を書いている。

第3章が実際のブログデータの分析。基本的には単語の頻度分布を見ている。日常語(長期に渡り定常的に使われる単語)、非日常語(新語など徐々に頻度が変化する単語)、流行語(マスメディアを中心に一気に流行る言葉)に分け、それぞれの数理モデルを述べる。なかなか面白い法則が見えてくる。日常語の出現頻度の平均と標準偏差は、テイラーのスケーリング則に従う。テイラーのスケーリング則には、他にもいろいろな現象が従っている。ブログの場合、ランダム拡散モデルで投稿数のゆらぎを導入すると、ゆらぎの大きさでポアソン過程になるか線形になるか説明できる(p.67-71)。一方、非日常語の頻度分布は、べき乗則でよく説明できる(p.71-86)。流行語は指数関数的な推移をするものと見ることができる(p.86-89)。また単語の頻度分布でよく言われる経験則、Zipf則とHeaps則を紹介し、それがブログでも当てはまること、またこの法則を導出する数理モデル、そして生態学でも社会現象でも同様に見られることを紹介する(p.100-115)。

第4章は感染症の伝播モデルとして有名なSIR(Susceptible-Infected-Recovered)モデルを出発点として、先の日常語、非日常語、流行語の推移を導く数理モデルを研究している。

大量のブログにおける単語の出現頻度を分析することで、かなり法則的なことが見えてくるのはなかなか面白い。第3章を読むべき。

アレックス・ペントランド『ソーシャル物理学』


再読。あまり内容は覚えていなかった。人々の行動や社会現象を、センシングデータを始めとする大量のデータを使って、統計力学など物理学の発想により説明する試み。「社会物理学とは、情報やアイデアの流れと人々の行動の間にある、確かな数理的関係性を記述する定量的な社会科学である」(p.16)。社会物理学では、従来の社会科学よりもはるかに大量のデータを用いて研究を行う(p.23-27)。情報に基づいて合理的意思決定を行う個人という像を取るのではなく、社会物理学では個人中心の考えに他人との交流という要素を加えて拡張する。社会物理学では、社会的学習と社会的圧力が主要な力となると仮定している(p.11)。

ソーシャルネットワークを始めとして現代のようなつながりすぎた社会では、意思決定を下す個人として捉えるよりも、 数百万の人々がお互いに影響を与えているという状況を考慮に入れることが必要(p.15)。それは現代であるからに留まらない。カーネマンのシステム1とシステム2が持ち出されて語られるように、私たちの通常の判断は、自分で熟慮の後に行われているというより、周りの人の行動や考えに影響されて決まっている。周りに合わせるほうが効率的だ(p.71)。

私たちは通常、周りの人に影響されて行動しているということは、情報の側から考えると、人々の間を情報が流れていくということだ。個々人が他人の経験から学習していくことにより、アイデアがコミュニティの中を流れる。それによって周囲の環境に最も適した行動や習慣のパターンが発見される(p.62)。環境に適したアイデアが生き残って広がり、グループに特質的な行動や考え方、広く言えば文化が決まってくる。例えば個々の会社にも、それぞれ異なるアイディアの流れがある。アイデアの流れの速さの違いによって、コミュニティの内外から学ぶ力に違いが生まれる(p.59f)。

アイデアはただ流れればよいのではない。同質のアイデアがすばやく集団内を流れて支配的になってしまうようでは、異質なアイデアを受け入れる余地はない。こうした状況はエコーチェンバー(反響室)と呼ばれている。集団的な知能、群衆の叡智はエコーチェンバーのようにアイデアの流れが速く、すぐに伝播してしまうことと、完全な孤立状態の中間地帯に生まれる(p.47-53)。

本書の大きな主張は、集団のパフォーマンスに大きく影響するのは、団結力やモチベーション、個人の知性やスキルなとではなく、アイデアの流れのパターンが最も大きく影響するということ(p.109-114)。組織内の交流パターンによって、パフォーマンスの高い組織と低い組織の間の差のおよそ50%は説明できる。アイデアの流れがどのようなパターンを取るかが、パフォーマンスを予測する最大の要因(p.129-133)。こうした考えは、人間の自由意思を否定しているのではなく、説明上必要としていない。社会物理学は、統計的に当てはまる人々の行動について述べている。しかし人間の内部には観察不可能な思考プロセスがあり、それが社会物理学の予測とは異なる行動を生み出す。これはイノベーションの芽吹きと言えるもので、ほんの数%の時間しか起こらないとはいえ、社会物理学に基づくシステムデザインに際しては個人が通常と異なる選択を行う可能性を想定しておかなければならない(p.226-229)。もともと、グラフで言うとノードの性質ではなくエッジだけに注目して予測できるというが、それでも50%であることに注意すべきだろう。残りの50%は個人の性質に依るわけだ。

もう一つ本書の主張は、こうしたアイデアの流れは、適切にインセンティブを与えることにより操作することができるということだ。私たちの社会的ネットワークを強化すれば、アイデアが流れ、生産性が挙がり創造性が高まる。こうしたアイデアの流れを後押しするような職業(教師、看護師、聖職者、警察官、公益のために働く医師や弁護士など)には、これまで以上に価値を認めるべきともいう(p.159)。

社会物理学がインセンティブに利用するのは、ソーシャルネットワーク・インセンティブ。個人に直接インセンティブを与えるのではなく、個人の行動がつながっている人にインセンティブを与えるようにして、社会的圧力を生み出す。この社会的圧力の大きさは、社会的絆の強さと交流の量に依存する。これはつまり、良く言えば絆だが、悪く言えば同調圧力だ。行動する本人をモチベートするのではなく、周りから圧力をかけ、その周りとのつながりで本人の行動を導く(p.84-96)。

そして本書では、単にインターネット上でつながっているだけの交流よりも、リアルな交流を重視する。そちらのほうが社会的圧力が大きいからだ。情報が行き渡り、ソーシャルメディアが広範に広がるようになっても、私たちは依然として少数の信頼する人々との交流に多くを依存している。新しい行動の社会への伝播は、ローカルに行われる個人間のやり取りを通じて進む(p.237-241)。そこで著者は、センサーなどを駆使して、実際にどの人がどの人とどのくらいの時間一緒にいるのかを計測し、データとして説明を行うアプローチを取っている。

最初の三章でこうした基本的図式が語られたあとは、応用編となる。著者には特に、都市や社会を効率的に変えるような社会工学的アイデアが多い。人々のつながりにおけるアイデアの流れから、1マイルあたりのGDPを高精度で説明するる。研究開発への投資率、犯罪率など都市生活の様々な数値も同様に予測できる。ポイントは、階級など社会構造を考慮しなくても、アイデアの流れだけで都市活動は説明できることだ。アイデアの流れを改善すれば、都市での生産性や創造性を高められる(p.198-200)。生産性や創造性で重要なのは、異質なアイデアの探求だ。裕福な人ほど見知らぬ人との接触(探求)が多くなり、交流する人の多様性を広げる方向へ変わる。見知らぬ人との接触が多い人でも、裕福でなくなると探求は減る。よって、探求の広さが裕福につながるのでなく、逆だ(p.195)。

都市については、都市のデジタル化には、センシングや制御の技術はもうあるが、あと2つの要素が欠けているとする。一つは社会物理学、特に社会の需要と反応の動的モデル。もう一つはデータに関するプライバシーと安定性、効率的な管理を保証するアーキテクチャと法体系だという(p.169)。こうした要素の上に築く、来たるべき社会の3つのデザイン規準を述べている。社会効率(社会システム全体の利益を目的とする交換ネットワーク)、業務効率(限られたリソースの中で効率的に動作する)、レジリエンス(社会的学習が早く進み、変化に対応できるために、いくつかの競合するシステムを用意しておく)(p.242-251)。

社会物理学ではリアルな人々の行動データを大量に操作するわけで、プライバシーには必然的に重きを置くことになる。動産や不動産では所有権を認めることで、人々が安心して売買できるようになったのと同様に、データに所有権を認めることがよいアイデアの流れを生む第一歩だという(p.214-216)。この上で、個人のデータを流通させるには規制とインセンティブが必要。個人がデータを共有する動機を与え、個人と社会の双方が利益を得られるようにする。公共組織だけが利益を得ればよいのではない(p.214)。個人データのプライバシーを保護したまま利用する手段としては、動的プライバシーの提案がある。各アプリにプライバシー情報(位置情報など)をすべて収集させるのではなく、中間にオープンPDS(Personal Data System)が入り、必要な情報だけをアプリのクエリに基づいて渡すという仕組み(p.283-286)。ただこれは、明らかにオープンPDSにかなりの情報が集約されるので、プライバシーリスクがそこに集中するだろう。オープンPDSが堅固であり、また信頼されるかが問題となる。

本書は2013年に出ていて、その後の社会物理学の流れを追うもほとんどフォローされていない状況だ。そりゃまぁリアルなセンサーデータという難度のかなり高いものを大量に必要とすることは、実験ベースでも行うのが相当に難しい。それでいておよそ50%くらいしか予測できないのであれば、あまりやる人もいないだろう。

ジョン・メンソズ『SOFT SKILLS』


ソフトウェア開発者として働きつつ、不動産投資で財を成して33歳で引退した著者が、生きる上での様々なトピックについて語る。ソフトウェア開発者としてのキャリアの形成から、転職のコツ、独学の方法、生産性の高い仕事の仕方、不動産と株式投資、フィットネス、恋愛まで。極めて多くのトピックに渡り、しかも450ページくらいある。それぞれの人が刺さるポイントを拾えばよい。著者はソフトウェア開発者としてそれなりに成功しているが、引退するほど財を成したのは不動産投資であって、ソフトウェア開発者として稼いだわけではないことは注意(p.319-327)。

ソフトウェア開発者は技術をもち、どこでもやっていけるようなスキルなので、そのキャリアを事業として考えるべき(p.8-11)。たまたまいまはこの会社にいるだけという発想。自分をマーケティングすることが大事。特に著者はブログを進める。自分の宣伝になるし、思わぬつながりを引き寄せるし、コミュニケーションスキルも向上する(p.115f)。また履歴書は自分の宣伝パンフレットなので、プロの履歴書ライターを使えとも(p.94-97)。収入は職責についてくるので、より重い責任を提示されたら、引き受けたほうがよいというアドバイス(p.45)。転職時(昇進時も)の給与交渉のアドバイスは相当に実践的。自分から希望給与額を明かさず、会社がそのポジションに確保している予算枠を聞き出すこと(p.282-287)。これらのキャリア上のアドバイスは、日本では有効でないものもあるが、参考になるだろう。


独学での効果的なテクノロジーの習得に有効な3つのことがある。始め方、テーマの幅、基礎。どうやって始めるべきか、どの程度の幅を持つテーマなのか、要求される基礎は何なのか(p.155)。こうした考えはとても有効で、納得がいく。例えば数学書で「入門introduction」とか「基礎element」とか書いてあるものは、時としてかなり難しい本だったりする。いきなり名著とかに取り組むのではなく、自分の今の水準から何を出発的にすべきかは、慎重に検討してから始めるべきだ。さらに学習には10ステップあるという(p.157)。この中では、どこまで学んだら達成かを具体的に決めておくことや、教えることの重要性が刺さる。

中心的に参考にしたのは仕事の生産性、特にポモドーロテクニックについて。生産性向上策の基本的な考え方は、週全体で2時間以内に終わる小さなタスクの実行計画を作ること(p.203)。時間軸の長い仕事は進捗も見えず、集中して成果を上げるには適さない。ポモドーロでは、25分の作業時間を単位とする。毎日10ポモドーロくらいの仕事ができるが、スケジューリングは9ポモドーロ分にしておく。著者はkanbanflowでタスクを管理している。割り込みを避け、メールは一日に一度だけ集中的に処理する。チャットは気が散る原因なので反応しない。たまにはポモドーロを使わない週も作る(p.204-208)。ポモドーロテクニックは、作業量の見積もりが大事。自分が何に最も多くの時間を費やしているかを把握し、生産性を高めるモチベーションを生む(p.212)。さっそく最近ポモドーロテクニックを使っているが、集中する時間が明確になるし、実際一日のうちで自分が集中して仕事をしている時間が驚くほど少ないことが明らかになった。

最後に、そして何度も強調されるのは、忍耐の大切さ。人生、うまくいかないことは多い(p.412)。著者の勧めは、うまくいくまでは、できたふりをすること。これは嘘をつくことではなく、うまくいかなくても自信を無くして閉じこもってしまうことを防ぐこと。ひとまず行動することこそ大事。難しい状況でも自信を持って取り組む。自分の能力に嘘をつくことではなく、前向きな態度を持つことが重要だ(p.90-93)。

オズワルド・マーティン 『Pythonによるベイズ統計モデリング』


私にはあまり適さない本だった。pymc3を使ってpythonでベイズ推論をやるための本。ベイズ統計学の理論的なトピックは知っていることが前提。Stanなどですでにベイズ推論をやっている人が、pymc3でやるにはどうしたらいいかを知るための本だろう。訳文も直訳調のところが多く、必ずしも読みやすい日本語ではない。

私にはまだベイズ統計学の知識が足りないので、本書の簡潔な説明では意味不明な箇所も多くあった。例えば信用区間(最高事後密度HPD)は頻度主義との簡潔な比較がある(p.26)がいまひとつ。HPDもROPEも説明が足りなくて、どういうものなのか不明。コードだけ提示されても、といった印象(p.57-60)。ディリクレ分布の説明も一段落で終わる(p.219)。そもそもpymc3でどうやるかという本なのだが、pymc3の各メソッドやそのパラメータについての解説もない。

内容はベイズ推論の概要から、線形回帰、ロジスティック回帰、情報量基準によるモデル比較、混合モデル、ガウス過程と続く。ガウス過程の章では、関数の推定を例にとり、結局は有限のデータポイントで推論するので多変量正規分布になると説明。ここは分かりやすく、参考になった。