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甘利俊一『脳・心・人工知能』

数理脳科学という、脳の情報処理の数学的モデルを構築する学問を切り拓いてきた碩学が、その研究を平易に振り返ったもの。昔からこの人の名前はよく見てきたが、雲の上で凄まじく高度な研究をしている人という印象だった。本書はいきなり宇宙開闢から始まり、脳を備えた生物がいかにして地球上に誕生したかを述べる。その後は、三次に渡るニューロブームの展開に絡めながら、自身が切り拓いてきた分野について語る。このニューロブ...

グロービス経営大学院『改訂3版 グロービスMBAマーケティング』

MBAコースのマーケティング教科書。とてもよくまとまっている。マーケティング戦略の策定からPEST, SWOT分析。STPの手順。その後、4Pマーケティングミックス。次いで応用編として、ブランド戦略、リサーチ、競争戦略、CRM、生産財マーケティング、グローバルマーケティングとある。市場の機会はあるものではなく、発見した事実を基に作り出すもの(p.23, 34f)というメッセージ。マーケティングは企業と市場との対話方法だが、機会を...

信原幸弘編『シリーズ心の哲学 III 翻訳篇』

翻訳篇と銘打たれた本書では、心の哲学の現代の古典となった英語論文が5つ収録されている。どれもその後の議論に大きなインパクトを与えた重要な論文だ。J.キムの論文はスーパーヴィーニエンスの考えをきちんと定式化。スーパーヴィーニエンスの概念を用いて、心的性質に対して因果的効力を与えられるよう論じる。マクロ的因果とミクロ的因果という、より広い事例からスーパーヴィーニエンスを説明するところがよい。心的因果は...

轟木一博『空港は誰が動かしているのか』

題名と内容はちょっと異なる。題名からは空港を日常的に運営する裏話のようなものを期待する。私もその想定で本を紐解いた。しかし内容はそうではない。この本は、2015年12月に締結された、伊丹空港・関西国際空港を統合した新関空会社のコンセッション(運営権)売却スキームを解説したものだ。日常的に空港がどのように運営されているのかについての話はない。著者は、伊丹空港・関西国際空港が(神戸空港を置き去りにして)新関...

信原幸弘編『シリーズ心の哲学 II ロボット篇』

なぜロボット篇という副題になっているのかはよく分からない。本巻は認知とは何かをめぐって書かれた5つの論文からなっている。古典的計算主義、コネクショニズム、力学系といった有名な立場を論じたもの。フレーム問題にフォーカスしたもの。そして、認知は認知主体だけでなく環境を含んで行われるという立場に基づく二つの論文。ロボット篇としているのは古典的計算主義から話が始まっていることと、フレーム問題を扱っているこ...

松尾豊編『人工知能とは』

人工知能学会に連載されていたものの書籍化。日本の人工知能研究を牽引してきた専門家たちが、改めて人工知能とは何かを語っている。人工知能研究と言ってもアプローチは様々で、自然言語に定位したもの、ロボット、オントロジー工学、環境とのインタラクションなど。問いの立て方が人工知能というものを正面から見据えている。例えば機械学習の話はほとんど出てこない。そうした点では概念的な話が続き、あまり面白くはない。13名...

和田充夫、恩蔵直人、三浦俊彦『マーケティング戦略』

こちらはビジネススクールや経営学部の教科書。実務的な本ではなく、企業が行うマーケティング活動を理論的にまとめたもの。マーケティングの4Pを中心としつつ、企業が商品を通して市場とか変わっていく仕方を整理している。教科書なので無味乾燥に近い記述も多い。実務では直接使える本ではないが、整理の仕方や概念を巡る議論に面白さを感じるところがある。例えば、製品ライフサイクルという概念の自立性への疑念。製品ライフ...

鈴木淳『関東大震災』

関東大震災について。特に震災発生後、罹災者たちがどう行動し、それを救援する行政、医療機関、地域の人々がどう行動したが綿密な資料渉猟によって描かれる。歴史研究者らしく細部の数字にまで気を抜かない姿勢が見える。それゆえ、よくあることだが、読み手としては細かい記述にポイントを見失いがちにもなる。ただ、著者が目しているのは単に歴史的事実の確定ではない。そこから来るべき震災に向けてどのような教訓を引き出して...