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ジャグディシュ・N・シース、アンドリュー・ソーベル『選ばれるプロフェッショナル』


良書。コンサルサント、弁護士、会計士など人にアドバイスを提供することを生業とする人たち向け。クライアントの信頼を得て、クライアントから選ばれる存在とはどういうもので、どうすればよいか。実際に多くのプロフェッショナルからアドバイスを受ける立場であるクライアントたちへの多くのインタビューに基づく。必要な要素がとても簡潔にまとまっている。またアリストテレスからキッシンジャーまで古今東西の数々の歴史上のアドバイザーたちの逸話も多く登場する。

まず本書が対象とするアドバイザーとは何かについて、エキスパートとの対比でうまく描かれている(p.41-48)。エキスパートは専門性に基づいて情報を提供し分析をする者。アドバイザーはそれに加えて、より広い観点から統合する役割を担う。 アドバイザーは専門知識でなく洞察を提供するか、作業や取引だけでなくクライアントと協働する関係を築いているかというニ軸によって説明されている。

著者は優れたアドバイザーの備える特質として7つを挙げている(p.49-51)。無私と自立、共感力、ディープ・ジェネラリスト、統合力、判断力、信念、誠実さ。それぞれの特質について章を分け、各特質がどういった要素からなっているのかを説明していく。

自立では知的自立、精神的自立、経済的自立の三つの自立と説く。三つの側面から自立した状態を保って、クライアントにノーを言うことが重要。クライアントの言うことをサポートするだけのアドバイザーは必要とされない(p.65-69)。
共感力は難しいところ。クライアントの感情、状況、思考の三つに共感すること。共感力を活かすには正しい態度(他人への興味、学習意欲、謙虚さ)、自己認識と感情のコントロール、傾聴する力が必要である。共感力を育てるには時間がかかるという(p.88-101)。

統合力はアドバイザーとエキスパートを大きく分ける。より広い視野から統合して物事を見られるのが、アドバイザー。統合力を養うには三つの要素があると説く。基盤(目的意識、全体像の理解、重要課題の認識)、ツールとテクニック(様々な発想法)、精神的・実践的習慣(熟考、集中力など)(p.152-179)。判断力では性急な誤った判断を避けるために5つの罠を定式化。アンカリング効果と最も入手しやすい情報にバイアスを受けてしまう不十分な前提。自分の思いの裏付けを探そうとしてしまう確証バイアス。過去の成功にとらわれる自信剰。過去の意思決定に束縛される既定路線 。自分が属するグループの正しさを信じる集団思考(p.193-201)。健全な判断は事実、経験、個人の価値観の三つから構成されているとして、健全な判断を下すためにはこの三つのどれもがおろそかになってはならないと説く。健全な判断を下すために五つの実践がある。問題を正しく特定すること。選択的に事実を収集し、収集しすぎないこと。経験に基づく健全な直感を得ること。自分の強く明快な信念や価値観に立脚すること。事後の正当化をせず経験から正しく学ぶこと(p.201-216)。

クライアントから信頼を得るアドバイザーの重要な側面が、誠実さだ。原語はたぶんintegrityかと推測するが、これはあまり誠実さと訳されるべき単語ではない。自分の信念に対する一貫性のこと。ヒトラーは自分の信念に一貫しているからintegrityは強力に持っていると著者も書く(p.256)。しかしヒトラーは日本語では誠実とは言わないだろう。

信頼は誠実さと能力、そして信頼することのリスクを相手がどの程度と認識するかから成り立つ、との定式化は明快(p.255)。信頼を構築する方法、信頼が失われるとき、失われた信頼から回復させる方法もとても参考になる(p.268-278)。

7つの特質が優れていればよいのではなく、これらの特質も行き過ぎればその良さを損なってしまう(p.285-289)。自立が行き過ぎれば柔軟性のない人間になるように。本書に登場する様々な優れたアドバイザーたちも、何度も失敗をしている。最高のプロフェッショナルやクライアントでも、度々はまってしまう避けるべき罠がある(p.290-298)。クライアントの権限がなく不適切だった、問題設定を誤っていた、能力を超えたアドバイス、クライアントの権威によりかかる、悪いニュースへの耐性をなくす、合わなくなった関係を続ける、意見や判断をうのみにする、組織から幅広いサポートを得られない、といった罠だ。こうした罠を回避するとともに、ブレークスルーの機会を捉える重要さを説く。歴史上の偉大なアドバイザーにも、それぞれのブレークスルーの瞬間があったことが書かれる(p.326-331)。

何度か読み返し、7つの特質について現在の自分の位置を見返すべき本。
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