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河合雅司『未来の年表』


ベストセラー。今後人口が減少していく日本で社会がどう変わっていくか、それに対してどうすべきかを書いている。前半で2065年まで年を追って社会がどう変わるかを明快に描写。後半でどうすべきか10の処方箋を書いている。

日本の人口は今後100年も経たないうちに5000万人ほどに減る。こんなに急激に人口が減るのは世界史において類例がない(p.7)。変化のスピードがあまりに早いので、過去や経験から学ぶ手法は通用しない。求められているのは、これまでのやり方や常識を否定し、発想を大胆に転換することだ(p.148f)。人口減少がもたらす課題は、出生数の減少、高齢者数の増加、社会の支え手である勤労世代の減少という三つの異なる要因による。これらは連動するが別の要因であり、どれかに対処すれば他にも対処できるものではない。日本の難しさはこれらが同時に、しかも全国バラバラに進むことだ(p.149-151)。これが日本で進行している「静かなる有事」(p.11)である。すなわち、
政府が追い求めるような、社会保障サービスを充実させながら、負担はある程度までで抑える「中福祉中負担」は幻想にすぎない。それなりの社会保障の水準を求めるのならば、「超高負担」を受け入れなければならないし、あまり負担したくないのであれば「低福祉」で我慢しなければならないということだ。社会保障サービスの縮小も、増税などの負担増も、経済成長と行政改革も、すべて同時にやらなければならないというところまで日本は追い詰められているのである。(p.65)

ここに書かれている未来予測は、頭のどこかで理解してはいるが実際に指摘されると衝撃的なもの。しかし直視しなければならない不都合な真実。高齢者や独居者の増加、技術者不足や人件費の増大が企業に与える影響、人口減少による店舗や銀行、住宅など社会に与える影響など。意外な論点は輸血用血液の不足。輸血用血液製剤の約85%が50歳以上の患者に使われているが、献血をする人の約76%が50歳未満。血液製剤の特に約40%は、自ら血液を作り出す能力の落ちるがん患者の治療に使われる。少子化で血液製剤の供給は減り、高齢化でがん患者は増えて需要は増す。血小板製剤は採決後たった4日間しか使えず、一般に保管が難しい(p.84-88)。

人口減少問題にまつわる二つの誤解(p.124-126)。少子高齢化という言葉が示すように、高齢化問題の解決の手段が少子化対策だという誤解が広まっている。子供が増えても高齢者の絶対数は減らないので、介護や医療サービスへの需要の増大は変わらない。またこれまでの少子化で将来母親となる女児が減っているので、合計特殊出生率が増えても少子化は止まらない。人口が減らない水準は出生率2.07だ。ただ出生率を上げれば人口が減るスピードは緩やかになり、対策を取る時間稼ぎができる(p.43-47)。これが誤解を生む一つの原因だろう。もう一つの誤解は、大都市部は地方からの流入が続いて若者は増えていること。実際は人口は増えているものの、生産年齢人口は減っている。戦後一貫して少子化傾向にありながら人口がむしろ増え続けていたのは、平均寿命の延びが少子化を覆い隠してきたためだ(p.110)。

こうした同時進行する深刻な課題は、2042年にピークを迎えるという。いまの行政による対策は、団塊の世代が後期高齢者となる2025年問題に捕らわれていて、2042年問題を見ていない。団塊ジュニア世代がすべて高齢者になって高齢者数がピークとなり、その下は就職氷河期世代で貯蓄が少ない2042年こそ、日本最大のピンチだ(p.117-121)。

著者の書く処方箋は、政府が進める四つの選択肢、すなわち外国人労働者、人工知能、女性の労働参加、高齢者の労働参加のいずれでもない。そうした労働力の供給を確保することではなく、労働力の需要を減らすこと。コンパクトで効率的な社会に作り替えれば、社会が必要とする働き手の規模そのものを小さくできる。日本は戦略的に縮むべきである(p.159-161)。

挙げられている10の処方箋はたしかに実行においてかなりの思い切りや痛みを伴うとはいえ、具体的で興味深いものだ。なかでも大学キャンパスを中心に住居やサービス施設を展開し、もう一度大学生気分を地方移住して味わってもらうという日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community)は面白そう(p.181-184)。ただ、匠の技を活用して少量品種・少量生産を行うイタリアモデルに移行し経済成長を確保するという案(p.176-179)は、製造業を中心に経済を捉えている点で問題がある。製造業はGDPの2割を占めるにすぎず、サービス業は7割を占める。日本はモノづくり大国などではない。

ここまで将来が明確で、処方箋も具体的に出ているなら、やればよい。この本がベストセラーになったということは、まだ希望はあるのかもしれない。とはいえ、東京五輪や大阪万博で金と時間を大量に浪費することがまかり通るここ数年はまだ難しそう。
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