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ケント・カルダー『シンガポール スマートな都市、スマートな国家』


シンガポールを賢いsmartと評価し、その国家戦略と都市戦略を検討した本。歴史的事項も多いが、それよりも行政制度など仕組みの話が多い。この小さな国家がいかにしてここまで発展し、国際的に信頼を得ているか。そして各国が学ぶことのできる点はなにかを探っている。
シンガポールには国民国家と都市という二つの顔がある。この二つの顔こそが国際舞台におけるシンガポールの強みであり、ふたつの立場の良いところを同時に享受している。その小さな都市国家的特色ゆえに実用主義的で柔軟な、そして特定のイデオロギーによらない国内政策を採る。そしてその国家としての立ち位置ゆえに、国際舞台においても正当な評価と信頼を得ることができるのである(p.18f)


建国からの歴史ではエンジニアリング・スタイルが強調される。シンガポールには才能あふれる保守的な指導者たちがいて、そしてその部下たちの多くはエンジニア、特にシステム・エンジニアであった。賢い国家と都市は課題に対して、統合的な、エンジニアリング・スタイルのアプローチをとったという(p.66)。

こうして設計されたシンガポールという国家において、著者が取り出すのは政府の下部機関である実行主体、法定機関に強力な役割を与えられていること。この法定機関は極めてユニークであり、特に公共政策の政治問題化を回避するという点で優れている。法定機関は実際に業務を行う職員に対して細かく明確に委任しており、しかも職員の給料は省庁の公務員よりも高く勤務状況も柔軟であるため、民間機関への頭脳流出を防いでいる(p.68-71)。これは都市開発庁URA、住宅開発庁HDB、陸上交通庁LTA、公共交通会議PTCといった組織。また特に重要な役割を果たしている経済開発庁は自己補正機能を持つ点でユニークであると(p.238)。

国家主導の開発を行ってきたシンガポールも時代により変化している。1990年代から2000年代に渡って、電子政府の導入を積極的に推し進めたたゴー・チョクトンの功績は高い(p.84-86)。21世紀における賢い国家では、国家主導の変革よりもむしろ、国家の順応性、情報の流れへのアクセス、グローバルネットワークの促進、市場刺激策への対応などが強調される(p.99)。

また社会保障などで国民の自己判断に任せる政策を取り、そのために国民の判断能力を養っている。国民に機能を付与するガバナンスが行われている。教育に対しては、国家予算の21%という大きな投資。失業保険よりも職業訓練を行うことが重視される(p.127-131)。シンガポールも国民皆保険制度に近い制度を持っているが、三つの方法で低コストで実現している。基本的なケアを運用を単純にし手頃な価格にすること。カテゴリー分けによる給付金制度を避け、患者の選択と支払い能力に応じて補助レベルに差異をつけること。義務付けた貯蓄口座制度CPFを通じ、国民に比較的高い自己負担金を課すこと(p.108-115)。CPFは国家が徴税するよりも国民に貯蓄を義務付け、国民に機能を担わせる面白い仕組み。

国家の仕組みについては面白い記述があるが、続く都市についてはそうでもない。シンガポールの課題としての水や住宅、交通渋滞への対処が書かれているがやや散漫な印象。国家についても中国とインドネシアという大国に挟まれ、マレーシアから追放されるという危機的状況がシンガポールの課題の解決を駆動している。

ついで、シンガポールがグローバルハブとしていかに国際社会のなかで地位を保っているかが扱われる。グローバル資本の誘致や、シンガポールの成功モデルの各国展開など。シンガポールに学ぼうとする中国、韓国、インド、ロシア、カザフスタン、ルワンダが描かれる(p.217-228)。

私の関心からは外れる点が多いが、シンガポールの国家戦略、都市戦略の変遷を的確にまとめた本だろう。
今こそ、我々はシンガポールを特に注意しなければいけない。なぜなら、その持続可能な国家と都市政策モデルは、デジタル革命とIoTを取り入れて新しく、適切な視点を示しているからである。それは国境を越えた課題にいかに取り組むかを教示するのだが、世界市場はグローバル化したものの、ガバナンスはまだグローバル化していない。シンガポールは発展する世界の中心において経済的に先行し、技術的に洗練された都市国家となり、その事例はタイムリーなだけでなく、広く適用可能である。歴史的な技術革新の時代において、G7のような福祉国家における危機への対処だけでなく、発展途上国で今起きている地方から都市への大規模な移行にも対処できる(p.232)
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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。
しかし博士号は取らずPh.D. Candidateで進路変更。
哲学と特に関係なくIT業界に住んでいる。

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