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鳥谷部昭寛、加世田敏宏、林田駿弥『スマートコントラクト本格入門』


スマートコントラクトの入門書。技術的な事項よりは、ざっと概要を述べた後、応用例が中心となっている。ビットコインを例としたブロックチェーンの解説、それに基づいて築かれるスマートコントラクトとDAO(自律分散組織)の仕組み、スマートコントラクトの法的問題、そしてGethやSolidityを使ってEthereumでスマートコントラクトを構築するプログラミングの解説がある。

スマートコントラクトのアイデアは1997年にあり、ビットコインより古いそうだ(loc.904)。可能性は多々広がるのだろうが、読む限りは現時点では結構難しいという印象を持つ。本書にはあまりスマートコントラクトの弱点については述べられていないのが不満点。

DAOでは契約の手続きをプログラムするのが特徴としている。しかしそれはスマートコントラクトの特徴というよりは、単にコーディングすればいい問題に見える(loc.904)。スマートコントラクトと自動車の話は、大部分スマートコントラクトと関係ない話。給油が必要になったら自動的にガソリンスタンドに向かう、というのはスマートコントラクトの話ではない(loc.1276-1339)。

ただマネタイズの難しさは指摘されている。スマートコントラクトの利点は中間業者の排除によるコスト削減だから、プラットフォーマーがスマートコントラクトを事業として提供するのは矛盾をはらんでいる。プラットフォーム上で流通する暗号通貨が高まることによるキャピタルゲインか、広告しか利益の源泉はいまのところない(loc.1491-1529)。それ以外にも、本書はあまりマイニングのコストについて注意を払っていない。マイニングを誰がやるか、マイナーの正当性(悪意を持っていないこと)をどう保証するか、報酬をどうするかが無視されている。ここがスマートコントラクトのコストの源泉(loc.1491-1529)。

確かに海外送金や貿易の信用状など、プレイヤーが多々あって既存の高コストな仕組みが出来上がってしまっているところでは、効果があるだろう。ブロックチェーンに参加するプレイヤーやマイナーを管理するコストは、既存のシステム投資より安く済みそうだから。ただ、プライバシー情報などはブロックチェーンを使う候補にならないだろう。ブロックチェーンはそもそも公開台帳なので、無理して暗号化したりキーのみを保持するなら、別途のデータ管理が必要になりそもそもブロックチェーンの意味がなくなってしまう(loc.1808)。

どういう場合にスマートコントラクトを使い、どういう場合に適さないかがあまり本書からは見えてこない。たとえばアメリカのNIST(国立標準技術研究所)がまとめたブロックチェーンを使うべき条件は次のよう。これらの条件を満たしてもブロックチェーンが必要なケース「かもしれない(may)」と言われているだけだが。
・共有された、整合的なデータストアが必要
・複数の主体がデータに関与する
・レコードは書かれたら更新されたり削除されたりしない
・データストアにセンシティブな情報が記録される予定はない
・誰がデータストアを管理すべきか決めるのが難しい
・データストアへの記録のすべてのログを改変不能な仕方で保持する必要がある
(cf. D. J. Yaga et al., "Blockchain Technology Overview", NIST Interagency/Internal Report No.8202, 2018, p.46)
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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。
しかし博士号は取らずPh.D. Candidateで進路変更。
哲学と特に関係なくIT業界に住んでいる。

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