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矢口祐人『ハワイの歴史と文化』


ハワイの歴史についての本。視点は近現代にある。こういった本では通時的に書かれることが多いが、本書では欧米との接触が盛んになる以前は最終章になっている。ネイティブハワイアンの歴史と文化を、今日のハワイ社会を理解するために必要な前史的な基礎知識に位置付けないために、最終章に置くという考え(p.8f)。

話題は19世紀ハワイでのサトウキビ生産と、その労働力としてのハワイ移民から始まる。1837年には約2トンに過ぎなかったサトウキビの生産は、アメリカ合衆国との条約で関税が撤廃されると増えた。1930年代には100万トンに達し、サトウキビの島として世界に知られるようになった。19世紀半ばまで中国との貿易や捕鯨船の中継地点に過ぎなかったハワイは、サトウキビの輸出の基点と変化した(p.21)。日本だけでなく、中国や東南アジアからも移民が渡る。ポルトガル人などヨーロッパ系を農園領主として、見知らぬ土地での過酷な状況が記されている。また特に、日本の中のマイノリティーであった沖縄の人々への視点がある。沖縄の人々は、ハワイの白人社会から日本人として差別を受けただけでなく、内地出身の日本人から沖縄出身者として差別された。このようななか、沖縄出身の人々は独自のアイデンティティを形成し、独自の団体を結成し、琉球文化を継承している(p.27f)。

ハワイ移民は日本人でもありアメリカ人でもあるようなアイデンティティを持った。だが特に1924年に移民法が成立して日本からの移住が事実上不可能になると、日本との心理的距離は大きくなった。ハワイの日本人は、ハワイに定着しアメリカ人として生きていくことを選ぶ。しかし太平洋戦争に向けた日本人差別の中、日本人としての意識を強く持った(p.50-54)。その太平洋戦争についての章では、戦争に影響を受けるハワイの人々が描かれる。真珠湾攻撃の夜以降、1944年10月24日まで戒厳令が敷かれる。戒厳令下で市民の生活は制限され、手紙や電話が検閲される。検閲官が理解できるように、電話は英語での会話が義務付けられる。兵士を中心に大量の人がハワイに流入する。ここで全米から兵士が集まったことは、戦後のハワイの観光地化の礎となった(p.74-78).

太平洋戦争はハワイの日系人を複雑な立場に置く。日本と通じているとして収容所送りになる人々。太平洋戦争が開戦した当時、ハワイ人口の約4割が日系人だった。彼らは日本人として敵視の対象になった。この敵視を解消すべく、彼らはアメリカへの忠誠心を高めた。皮肉にも日本軍による攻撃によって、日系人社会はアメリカ人としての意識を強く持った。 日系人社会の主役も、日本人としての一世からアメリカ人としての二世と移行する(p.83-97)。

ついで観光地化するハワイの姿が描かれる。日本から南国の楽園として描かれるハワイ。太平洋戦争以前からの、日本のハワイへのあこがれが書かれる。そしてそれに応えるように観光地化していくハワイ。ハワイ側も戦後の発展に、日本からの観光客をあてにした。日本からのハワイ投資の起点となる1970年大阪万博でのハワイ投資セミナー。これは当時、アメリカの景気が後退して、投資や観光客が減っていたというハワイ州政府側の事情もあった(p.142-144)。

最終章が欧米接触以前のハワイ。現代におけるネイティヴハワイアンの位置づけをめぐって書かれている。1778年クック船長によるハワイの発見。カメハメハ王は欧米の力を利用して、1810年までにハワイを統一する。ハワイはヨーロッパの商人による白檀貿易で栄えるが、 やがて白檀は枯渇し捕鯨に取って代わられる。ハワイで権力を拡大させる欧米人に対して、1893年にリリウオカラニがハワイアンによるハワイ王朝の復権を図る。しかしハワイに住む欧米人はこれに対しクーデターを企て、ハワイ共和国を建国。ハワイの人々による反対と抗議の中で、1898年にアメリカに併合される(p.181-196)。

1989年のハワイ併合100周年に向けて高まっていく、ハワイの人々の抗議の思い。著者は、ハワイ出身のバンドハパが歌う、U2の「プライド」という曲のカバーに託して描く。この辺りはとてもよく書けている。ハパはネイティヴハワイアンとアイルランド系の二人からなるバンド(ハパはハワイ語で「半分」、「ハワイアンと白人の混血」)。U2の「プライド」はボノがホノルル滞在中に、公民権運動のキング牧師にささげるために作った歌。ハパは1993年の全米学生フットボール大会でこの曲を歌う。この日はハワイ王朝転覆100周年の日であるとともに、キング牧師の記念日の前日。キング牧師の差別と不正義への抗議を讃えるとともに、ハワイの人々の意向を無視した王朝転覆という不正義に抗議する意味を持った。そしてこれは1998年にアメリカ議会のハワイ王朝転覆についての謝罪決議へつながっていく。いまではネイティヴハワイアンはアメリカ先住民の一つとして、その権利保護を受ける(p.201-209)。

近現代の話が中心なのでやや浅さを感じるものの、いまのハワイを理解するにうってつけの一冊。
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