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山中速人『ハワイ』


観光本が紹介するハワイを補完するように、観光本では見えないハワイのトピックを紹介している。ポリネシア文化とその復興運動、移民たちが織りなす虹のような多民族社会、ワイキキ観光開発の影の部分、日系人と太平洋戦争など。通時的な記述ではなく、トピックばらばらに論じていくのでやや一貫性を欠くようにも見える。

著者が見るところ、日本人はハワイについて固定観念を3つ持っている(p.7-11)。一つは、ハワイに太平洋の楽園のイメージを重ねること。一つは、ハワイにアメリカ文化のショーウインドウを期待すること。最後には、ハワイをあたかも日本の一部と考えること。これらの固定観念はたくさんの日本人はハワイに惹きつけるとともに、ハワイの理解を妨げている原因でもある。こうした固定観念の向こうにあるハワイを描こうとしている。

描く手法はハワイに生きる人の視点から書くこと。こうした紹介本では、世界の大きな潮流の中にハワイを置いてみて、そのコンテクストを理解するアプローチが取られる。しかし本書は逆。ハワイの全体像を方法としてカマアイナ、土地っ子の視点を取っている。 ハワイという小さな島々に影響力を行使していた巨大な大国の眼からではなく、この土地の人の視点から逆に世界を見てみることが大切と(p.14-16)。たしかにハワイは近代以降、あまりに世界の潮流に翻弄され、現在の民族構成からもハワイ固有の歴史が見えにくくなっている。

ハワイ固有の歴史はポリネシア文化。この文化はそれなりに発展したものだ。先住民社会をすべて原始的な共産制社会のように考えるのは誤りである。特にハワイは、階層的な社会組織を発展させた。これはポリネシア社会に共通する一つの特徴であり、メラネシアには見られない。また北アメリカの先住民族とハワイ先住民が決定的に異なるのは、ハワイ先住民はかつて近代国家、 立憲君主制のカメハメハ王朝を持ったことだ(p.36-39)。とはいえ、ハワイは欧米諸国と接触するまで全島を統一するような権力はなかったし、カメハメハ大王の統一ですらイギリス戦艦の兵器を借りたものだった。ハワイに近代国家があったと言っても、それは一瞬の徒花のようにも思える。

現代のハワイの多民族社会は、クック船長との接触以降、ヨーロッパから持ち込まれた病原菌による先住民の大量死と、サトウキビプランテーションのための主にアジアからの大量の移民の結果だ(p.47-68)。最初に多くやってきたのは中国系。1850年の法律成立以降に組織的に増えた中国移民は男女比が17:1だった。結果としてハワイ人女性との結婚が進んだ。妻の土地を資本にして、中国人は農業や商業に力を発揮した。しかし制限する法律の影響で1886年には中国からの移民はほとんど停止し、日本人に取って代わられる(p.54)。他にもフィリピン系、サモア系などがハワイにはいる。圧倒的多数となる民族を持たない、多民族社会となっている。

観光地ワイキキの功罪。その誕生は、アラワイ運河を掘削し、その残土でワイキキの水田や養魚場を埋め立て、観光用地としたもの。ディリンハム・ハワイ浚渫会社が仕掛けた。工事は1928年完成。これにより湿地は破壊され、塩害で樹木は枯死し、周辺の住民は宴会や水質汚濁の被害を受けた。企業と行政が結託して住民を追い出す典型的なリゾート開発だった(p.98-100)。

日系人についてはそれなりの分量が扱われている。特に1893年、アメリカがリリウオカラニを追放したハワイのクーデターについての日本の反応が興味深い。日本は、東郷平八郎率いる戦艦浪速を(邦人保護の名目だが)ホノルルに派遣して、消極的ながらアメリカを威嚇した。この日本の動きに対して感動を覚えたハワイの人々の反応が記録される。ハワイと同じく西欧列強の圧力のもとにあった日本の反応だろう。だがこのハワイへの同情は、やがてアメリカのハワイ併合を植民地支配の先例として正当化する帝国主義的態度に変わっていく(p.127-130)。この日本の視点の変化に対するハワイの人々の反応を追うなどすると、面白いテーマとなるだろう。

また、太平洋戦争での日系人はアメリカに忠誠を尽くしたというより、自分の故郷としてのハワイを愛したのだと著者は解釈する。日本にもアメリカにも与するものではなく、あくまでハワイにアイデンティティを感じていたと。日本へのつながりを引きずる日系一世に対して、日系二世たちがアメリカを利用して主導権を奪っていく(p.149-154)。

ポリネシア文化の復興は1970年代から始まり、1990年代に大きな潮流となる。この流れはやはり、黒人運動やベトナム反戦運動などに影響を受け、先住民としての意識が高まっていく流れと捉えられる。それまでの間は、同化政策により民族意識は希薄化していた(p.165-175)。
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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。
しかし博士号は取らずPh.D. Candidateで進路変更。
哲学と特に関係なくIT業界に住んでいる。

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