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山口雄大『品切れ、過剰在庫を防ぐ技術』


資生堂で化粧品の需要予測を担当する著者による一冊。需要予測そのもののやり方を書いているというより、予測を行う人が陥りやすい落とし穴について書いている。著者自身が昔、学んでいた認知科学の知見を活かしているそうだ。需要予測のやり方についてのヒントを求めていた私には、ちょっと期待外れの本だった。

需要予測における認知的な落とし穴は、次の通りまとめられる(p.237)。予測方針決定のステップで、利用可能性ヒューリスティクス(すぐに利用可能なものを参考にしがち)。データ収集のステップで、確証バイアス(一度出した結果への固執)。データ分析のステップで、代表性ヒューリスティクス(一部分だけで全体を考えてしまう)。予測のステップで、基準比率の無視(サンプルと母集団の比率の違いの無視)と、参照点の移動(アンカリング効果)。振り返りのステップで、後知恵バイアス(もともと予測していたと後から見なすこと)と出版バイアス(悪い結果は記録されていない)。認知科学の確立した用語のものもあり、著者独自に名付けたものもある。

それぞれの落とし穴を自覚していくことで、予測は向上していくだろう。人に依存した需要予測では経験がものをいうが、これはベテランの予測担当者は勘、つまりヒューリスティクスを活用しているから。一見とても有用に見えるヒューリスティクスは、ときに大きなミスを犯す原因にもなる。認知心理学からバイアスを学ぶことでミスを防ぐ(p.54)。

実際の現場の経験からこうした落とし穴の例、うまく避けられた例などが豊富に書かれている。紙面の都合もあり、また業務上の秘密もあってそんなに詳しくは書かれていない。新製品の需要予測を、類似品の実績、市場トレンド、マーケティング要素の三つに大分類するところでは、小分類は記載されていない。この分解を使うことで、予測が外れた場合の原因を特定できるし、マーケターとの会話もスムーズになるという(p.85-93)。役に立ちそうな考えだが、このままではよく分からない。

後半は統計を絡めた雑多なトピックを扱う。プロの感覚を可視化する技術として、フェルミ推計、移動平均前年比、AHPなどが紹介される(p.150-171)。訪日観光客が化粧品を大量に購入する心理的な節目が107円であると突き止めた苦労話(p.180-186)、カニバリや連動して売れる商品を把握することの困難など。

最後の章は組織論がある。成功、失敗の知見をためておきチームで共有する。マニュアルは口頭で説明を受けた新任担当者が更新すると、わかりやすくなる(p.217-229)。

需要予測の実際はそんなに高度な技法ではなく、エクセルベースのもののようだ。どんな変数を入れるべきか、結果をどう解釈すべきかに力点がある。さらに言えば予測というよりは、BIによる現在の売上推移の原因を推定する方が鍵になっているようにも見える。実務家には刺さるポイントが多くありそうだが、全体的なまとまりをちょっと欠いていて筋となる論点が見えにくい。
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