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福島章『犯罪精神医学入門』

犯罪精神医学入門ー人はなぜ人を殺せるのか (中公新書 (1796))犯罪精神医学入門ー人はなぜ人を殺せるのか (中公新書 (1796))
(2005/05/26)
福島 章

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素晴らしい本だ。特に大量殺人、猟奇的な殺人等を何らかの精神障害によって犯した人物について、その分析を行う。個々の事例に基づいて分析されるため、理論的で抽象的であってもあくまで具体的。一見して理解不可能なように思えるその言動を、見事に読み解いていく様は爽快感を覚える。

特に、バランス感覚に優れている。脳の微細な腫瘍がもたらす精神障害、という器質的な原因を主軸とする。だが、最近の狭小な「脳科学者」のように、何でも物質的な基盤に還元しようとするものではない。ビンスワンガーの現存在分析が導入されるあたりは、圧巻だ。精神障害を訳の分からない、自分とは異質のものとして見るのではない。あくまで、一人の人間として多面的に理解しようとする。これは幅広い見識が要求される。並大抵にできるものではない。

さて何よりも印象に残ったのは、あとがきの次のフレーズ。「穏和な草食動物である私は、「誰かを殺してやりたい」、特に「何人でも殺したい」と思ったことは一度もない。これは、たいていの人が同じだと思う。それなのに、殺人者としてわれわれの目の前に現れる人々は、なぜ殺人という行為を犯しえたのか?」(p.230)
個人的にはこれと逆の問いを子供の頃から抱いているので、とても奇妙な気分になった。「たいていの人」は大量殺人など考えないのだろうか?人はなぜ人を殺せるのか、ではなくて、人はなぜ人を殺さないでいられるのだろうか、の方が私は気になる。


amazonに読書記掲載。「殺す」がNGワード。「殺害する」に変えたら通った。
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何らかの精神障害を持ち、大量殺人を犯した人たちの精神状態について。社会に衝撃を与えた実際の事件のケーススタディ。報道や公判の記録から、被告の精神状態を分析していく。実際にあった事件の話でもあり、かなり生々しい記述が続く。そういうのが苦手な人は避けた方がよいだろう。

本書の特徴はその生々しい分析にある。だがそれ以上に、著者が持つ視野の広さに驚かされる。著者自身の基本主張は、この精神障害の原因を脳の微細な器質変異(MiBOVa)に求めるものだ。だが昨今の狭小な「脳科学者」のように、それで事足れりとはしない。幼少期の虐待、薬物依存、成人期の挫折・鬱エピソードなど、多面的に理解しようとする。果てには精神分析家ビンスワンガーを持ち出し、愛と承認を求める現存在の姿を描く。

つまり、著者は被告を一人の人間として理解しようとしているのである。精神犯罪者を単に「我々」と異質なものとして排除するのではない。単に脳の器質的側面からのみ分析する「科学的」態度であれば、これとさほど変わらない。そうではない。これら被告は、器質的に変異を持っているとはいえ、一人の人間である。一人の人間として悩み、苦しむ存在である。人間の、しかもかなり複雑に形成された精神状態が単一の視点から解明できるわけがない。あくまで多面的な分析を心がける著者の姿勢は素晴らしい。

彼らも人間である。犯罪精神医学はそのような特殊な精神状態を分析することにより、通常の精神状態にも共通する本質を明らかにしていく。それは、我々自身を知ることにもなるのだ。

最後に著者はこう記す。問いは、「人はなぜ人を殺すことができるのか?」であると。大量殺人を思ったことは一度もない。なぜそんなことを思い、実行してしまう人たちがいるのか、と。そして、これは大概の人が共感できるだろう、と述べる(p.230)。だが大概の人は、本当に大量殺人を思ったことがないのだろうか?問いはむしろ、「人はなぜ人を殺さないでいられるのか?」ではないだろうか?
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