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西成活裕『渋滞学』

渋滞学 (新潮選書)渋滞学 (新潮選書)
(2006/09/21)
西成 活裕

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かなり面白い。自己駆動粒子(self-driven particle)の振る舞いについて。粒子として見た場合、例えば人の動きはニュートン力学の基本原理では捉えにくい。自分で勝手に運動方向を変えたりするので、慣性の法則がそのまま適用できるわけでもないし、運動方程式を解いて一定時間後の位置が予測できるわけでもない。しかし無秩序なわけでもない。ではどうやって捉えるのか。著者はセルオートマトンというモデルを用いてこれを解明しようとする。

こうして、自己駆動粒子の流れがモデル化され、分析される。特に、流れが滞留して渋滞となる条件が主眼に置かれる。分析されるのは、車の交通、人の流れ、アリの行列、TCPのパケット通信、と多様。様々な事象がセルオートマトンというモデルですっきりと整理され、横のつながりが付けられていく。とても面白い。

個人的に面白いのは、小さいフォントで書かれている「講義」。ここは、実際の事象をいかにセルオートマトンモデルに取り込むかが述べられている。どういうモデルを構築するか。例えば、他人に付いていくということを、各セルに他人の足跡の数を保持する、ということでモデル化する(p.120)。やや理論的な解説のところが面白い。

興味深い話題をいくつか。液体の過冷却状態にあたる、車の交通のメタ安定状態。ちょっとした刺激で渋滞に相転移する、脆い安定状態の話(p.54)。出口が狭いと人が殺到したとき渋滞となるが、出口の少し外れた前のところに障害物があると、意外にも流れが良くなる(p.108)。この原因はよく分かっていないらしい。砂時計である時間を正確に測るのに必要な砂の量や容器の形は理論的には解明できていない(p.166)とか。

後半の少しまではいいが、最後の方は話題がどんどん拡散していってしまう。それまではどうモデル化して解明するか、という話がきちんと書かれていて良い。話題があちこちへと移ってしまい、果ては大学行政の愚痴になる後半はやや残念だった。

最後に。コンピューターが間違える計算の例、としてパイこね変換の話題がある(p.228ff.)。これは人間が10進法で扱う数値を、コンピューター内部では2進法に変換して保持していることによる、有名な問題。10進法での非循環小数の多くは、2進法では循環小数になってしまうので丸め誤差が生まれる。だから何回も繰り返すと、10進法に変換して見る限り、誤った計算をしているように見える。だが、これは小数の基数変換の問題だろう。「コンピュータがデジタルである限り、絶対に回避できない問題」(p.230)というのはどうか。パイこね問題に限るなら、10進法で浮動小数点を使ってから処理すれば回避できるのではないか?
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