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リチャード・ブックステーバー『市場リスク 暴落は必然か』

市場リスク 暴落は必然か市場リスク 暴落は必然か
(2008/05/22)
リチャード・ブックステーバー

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経済学者から転身、投資銀行のトレーダーを経てリスクマネジメントの専門家に。現在はヘッジファンドで運用を担当する。まさに現代金融の中枢部を歩いてきた著者による、金融市場のリスクについての本。原題は「我々の創りし悪魔」。もっといい邦題にならないものか。ちなみに原著は2007年なのでサブプライム問題についての本ではない。帯のセリフはかなりミスリーディング。この引用符は何を引用しているのだろう?

とはいえ、高いレバレッジ、複雑な数式や高度な計算を用いる運用スタイル、いくつものオプション等を組み合わせるポートフォリオ、そして流動性やボラティリティが市場崩壊の鍵となることについては、サブプライム問題にも十分通用する。1987年のブラックマンデー、1998年のLTCM、それにつぐ旧UBS銀行破綻は、著者の見るところまさに流動性の危機である(p.44,161)。

確実な金融の知識に加え、内部の人間ならではの、危機を巡る人間模様が描かれる。ときにノンフィクション小説を読むような臨場感がある。次から次へと登場するテクニック、そしてその流行と破綻。同じ物語が繰り返されていくよう。スワップを用いた取引の破綻の一因として、アクチュアリーの間でよく使われるAPLというプログラム言語が挙げられているのが意外だった。他人の書いたプログラムの可読性が低いし、ループが複雑になりがちだという(p.83)。結果としてリスク評価が甘くなってしまったと。

こういった複雑化した現代の金融システムは、単なる規制でうまくいく訳がない。例えば銀行に対する自己資本比率の強化は、悪影響でさえある。銀行はその自己資本比率を死守すべく、精算売りを行う。これが市場のボラティリティを高め、逆にリスクを増やす。大量売りを余儀なくされれば、誰もが逆のポジションを取る。かくして買い手が現れず、より安い価格の売りを余儀なくされる。たまたまそれを保持していた他の投資家に影響が及び、危機が連鎖する。規制は、逆に流動性の危機を生む。(p.249)

こうしたことは、各要素が密に結びつき、一要素の動きが他と切り離せない、密結合したシステムで起こる。原子力発電所の炉心溶融や、飛行機の墜落事故などが類例としてあげられる(p.270)。複雑で密結合したシステムへの対処法は、複雑性を減らすことだ。複雑性を減らすアプローチの比喩として、ゴキブリの生存戦略が挙げられるのが面白い。ゴキブリはろくに視覚も触覚も持たない。空気の流れの微細な変化を察知し、逃げる。周囲の環境には多くの情報があるが、それをほとんど利用しないことで複雑な生態系を何億年も生き抜いてきたのだ(p.394)。ミクロで個々の状況にそれぞれ最適化することではなく、粗視的なアプローチこそ、複雑なシステムに通用する。

ということで、「金融商品を単純化し、レバレッジを減らすことが、金融市場の制度設計を修正する処方箋であるのは、改めていうべきでもない」(p.425f)という結論になる。だが、方向としてそうであっても、それがどういうことがよく分からない。また、これが前述の規制とどこまで違うのか、また、本当に可能であるのかどうかもよく分からない。複雑すぎて誰も気付かないところに利益のタネを見つけてきたのが、現代の金融業界ではなかったか。
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