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ジョセフ・ルドゥー『エモーショナル・ブレイン』

エモーショナル・ブレイン―情動の脳科学エモーショナル・ブレイン―情動の脳科学
(2003/04)
ジョセフ ルドゥー

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脳において情動を成立させるメカニズムについて。情動emotionであって感情feelingではない。危険に出会ったときに心拍数が上がったり、毛が逆立ったり、立ちすくんだりするような直接的反応についてであって、恐怖「感」についてではない。この二つを区別することが本書のポイント。

つまり著者は、情動を認知から分類する、「情動を認知という怪物に吸い込まれないよう守りたい」(p.85)と述べる。情動についての研究史を追いつつ、脳科学においてなぜ情動がまともに扱われてこなかったのかを分析する第2章はよく書けている。著者の言うところ、情動が脳科学において中心的に扱われてこなかったのは、(1)行動主義から機能主義へと続く流れの影響(p.34)、(2)情動は意識の主観的状態であって客観性がないと考えられてきた(p.44)ことによる。

情動の理論はウィリアム・ジェームズから論が起こされる。ジェームズは危険への遭遇→恐怖感→種々の身体反応(心拍数の上昇など)という素朴なモデルを批判して、危険への遭遇→身体反応→身体反応の認知→恐怖感というルートを主張した。そのモデルのように、情動の成立はその認知を伴わない。だがその後の実験によって明らかにされたように、感情の成立も身体反応の認知を必要とするわけではない。こうして、情動と認知という、脳の情報処理の大きな二つのシステムが論じられる。

著者は情動の研究において、主に恐怖条件付けに着目して論を進める。面白いのはフロイト的な深層心理学との接点を探っていること。例えば、非常に大きなストレスを受けると、扁桃体が活性化し、副腎にシグナルが送られる。この結果、副腎からステロイドホルモンが放出される。この量があまり過大になると海馬の活動を低下させる。これがフロイト的な記憶の抑圧のメカニズムと言える(p.290)。逆に扁桃体はストレスによって活動が低下することはない。この結果、非常に強力な情動記憶が形成されることがある。したがって、本人が外示的記憶として覚えていないにもかかわらず、なぜか強い恐怖感や不安感を抱く、ということがありうる(p.292,303)。

感情についても少し述べられている。つまり、危険に出会ったときの防御行動と同じように、情動行動は意識のある感情とは独立に進化したものである。恐怖の感情は、防御行動を生み出すことを中心とするシステムと、意識を生み出すシステムという二つの神経システムが進化した副産物である(p.153)。これらは短期記憶の領域で出会い、感情の認識と、意識内容に対する情動的な色合いを成立させる(p.241,347,353)。

面白いところは多いが、ちょっとまとまりを感じられない。ポイントが見えにくい議論もあり、やや散漫な読書だった。
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