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井筒俊彦『意識と本質』

意識と本質―精神的東洋を索めて (岩波文庫)意識と本質―精神的東洋を索めて (岩波文庫)
(1991/08)
井筒 俊彦

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名著。イスラム哲学や中国思想、日本の仏教思想について、西洋哲学的な枠組みを用いて解明しようとする。その手法に「共時的構造化」という名前が付いているが、要するに歴史的な展開を追うのではなく、ある概念を中心として様々な思想を取り集めてくる。もちろん、そうすることで細部が失われることがあるだろうが、その思想の圏域だけに留まったのでは見えてこない、広い視野が得られる。

本書は特に「本質」という概念を巡る。あるものがあるものであることの成立根拠である。著者は本質に対するこの態度を、様々に区分けして思想を配置していく。本質の存在を否定するものとして位置づけられるのが、何よりも禅の思想である。禅、ひいて仏教では事物の本質など存在しない。それはむしろ、人間の倒錯した意識の働き、妄念だと考える。事物がそうであるのはその本質に依るのではなく、因縁所生である。山はただ限りなく錯綜する因と縁の結び合いによって、たまたま山として現象しているだけだ。この考えは、神による天地創造を考える(したがって事物の本質は神による)イスラム教やキリスト教と著しい対象をなす。(p.150ff)

逆に本質を肯定する思想として、著者は3つを分類する。(1)本質は、ある特別な方法によって、存在の深部に意識されるとするもの。宋学の格物窮理、マラルメの思想。(2)本質を象徴性を帯びたアーキタイプ、元型として考える。神秘主義の思想。ユング、イブン・アラビー、スフラワルディー、易、密教のマンダラ、カッバーラー。特にユダヤ教の神秘思想カッバーラーは、神そのものの根拠として「無」の深淵を考える。これはユダヤ教には奇妙な事態である。人格的一神教は徹底的に有的であって、無の片鱗すらないはずだ(p.276)。(3)本質は存在の真相ではなく、理知的に認知される。本質は実在するものとされるが、実際に形而上学的経験を通じて直接捉えるのではない。プラトンのイデア論、儒学(特に孔子の正名論)、インドのニヤーヤ・ヴァイシェーシカ派の存在範疇論。(p.72f)

西洋哲学からイスラム、インド、中国、日本と巡るその縦横無尽ぶりには驚かされるばかりだ。例えば、イスラム哲学の二つの本質、マーヒーヤ(アリストテレスのto de ti)とフウィーヤ(ドゥンス・スコトゥスのhaecceitas)を取り上げる。それを現象学に結びつけて哲学的な解説をなしたあと、なんと芭蕉論へ展開する。凄まじい視野の広さ。(p.50)

特に禅の「無心」については言葉を尽くしていて、参考になることが多い。禅の「無心」は単に「心」の否定概念ではない。それは認識がまったく停止した状態ではない。むしろ、純粋無雑なノエシス、個別的対象としてのノエマをもたないノエシスである(p.101)。また、主客の対立を超えた、脱自的意識の地平に顕現する純粋存在に対する無心の目として禅を捉えることは間違ってはないが、あまりに静的であって、禅の力動性を捉えていない(p.141)。事物は全体として覚知される無分節な「無」の自己分節であり、事物は互いに通じ合い、存在相通が成立している。事物の存在はこのような分節と無分節の絶えざる、力動的な転換である。花は「花である」のではなく、「花のごとく」ある。(p.171)

あまりに図式的すぎるというけらいもあろう。西洋哲学の枠組みを使って東洋哲学を整理するそもそもの試みにも。私個人にはその方がとても分かりやすかったが。プラトンのイデア論、プロティノスの流出論、スコトゥスの個体論、スピノザの汎神論、マールブランシュの機会原因論、メルロ=ポンティの<<肉>>論などが次々と頭に浮かんだ。

日本はまさに東洋的伝統のなかにありながら、高度に西洋化されてもいる。次の著者の言葉は、含蓄の深いものだ。「要するに、我々現代の日本人の実存そのもののなかに、意識の表層と深層とを二つの軸として、西洋と東洋が微妙な形で混合し融合しているということだ。」(p.414)
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