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石母田正『平家物語』

平家物語 (岩波新書)平家物語 (岩波新書)
(1957/11/18)
石母田 正

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著者は歴史学者だが、この本は『平家物語』を文学作品として読解する。その構造、著者について、『平家物語』が受け入れられた時代背景、『平家物語』がもつ思想について、等。『平家物語』は、有名だがほとんど読まれることのない本の一つだろう。そして教科書等に取り上げられるがゆえに、むしろ誤った印象を持たれている。

著者は言う。『平家物語』は戦記文学ではないし、無常観を語った思想の本でもない(p.225)。たしかに冒頭の「祇園精舎の鐘の声・・・」で始まる一節はあまりにも有名である。しかし、『平家物語』は文学作品なのだ。物語の中に平文で書かれている運命観や無常観を、作者の思想としてそのまま深刻に受け取るのは文学の性質から言っておかしい。文学における作者の思想は、彼によって物語の中に創りだされた人間を通してのみ捉えられる。例えば斉藤別当実盛は自分の死を自覚しつつも、武勲をあげようとわざわざ戦場に赴く。こうした矛盾したところに作者は興味を持っている(p.49,211f)。あるいは、重盛の描き方。重盛は歴史的事実と違う点がもっとも多い。だが、それが虚構されたものであるからこそ、そこに作者の世界観、運命観が示されている。(p.24)

『平家物語』の作者の考えについては、『方丈記』との比較が面白い。『方丈記』の鴨長明はいつも自己反省的・内面的である。だが、『平家物語』の作者は違う。彼が名文でかきたてる厭世思想にだまされてはいけない。彼は物語精神が強烈であり、これほど人間の様々な側面が見られた内乱期に、嬉々としてそれを描いていった。彼には人間が面白くてたまらない。それに対して、鴨長明には物語精神が欠けている(p.47f)・・・こう著者は評価している。

文学作品としての位置づけも興味深い。『平家物語』の時代に人々が必要としたのは、物語によって構築された純粋な虚構の世界ではない。『源氏物語』のような虚構は、この時代には必要とされていない。事実そのものの迫力によって圧倒されている内乱期の人々が必要としたのは、断片的、記録的な事実を物語または文学に高めることである。それはまた、『今昔物語』のような断片的な説話集でもない。平氏の滅亡を中心として、この時期の事件の一切を展開することである。(p.57)

さらに、漢詩との関わり。平家物語には華麗で力強い漢詩文が文体的にも内容的にも生かされている。漢詩文の世界が物語の世界に入り込んだのは、平家物語の時代からである。古代より貴族は漢詩に強い興味を持ったが、物語に生かされていたのは和歌であって漢詩ではなかった(p.177f)。だが和歌や漢詩は詩であり、主に聴衆に叙情的なものを引き起こさせることが中心である。事柄自身に即して思考する知的、科学的な考えの基礎となる散文が不足している。言葉の一つ一つが正確な意味内容を持ち、論理的に結ばれているような散文が発達せず、七五調的散文の過剰に日本は悩まされてきたのだ。(p.181f)


本書の内容を端的に顕しているのは次の一節であり、これが特に印象に残った。
つまり平家物語の作者は、後からかんがえれば、滅亡するほかなかったような運命にさからって、たたかい、逃げ、もがいたところの多くの人間に深い興味をもったのである。それを物語にしたことによって、彼は人間の営みを無意味なものとかんがえる思想とたたかっているといってもよい。それは作者の意図や思想と矛盾しているかもしれないが、客観的にはそうなのである。平家の作者は、暗い運命観や無常観にとらわれているようにみえて、じつは内乱がくりひろげた人間の生き方の種々相、その悲劇と喜劇が面白くて仕方がなかったのであろう。[...]現世と生の無意味さを説く精神が強まってきているこの内乱時代に、現世と生の面白さ、豊富さ、複雑さを教えた点に、平家物語の価値がある。平家に一貫する悲観的な精神や運命観も、右のことをぬきにしては正しく理解されまい。(p.50)
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