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エリヤフ・ゴールドラット『ザ・ゴール』

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何かザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か
(2001/05/18)
エリヤフ・ゴールドラット

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最高に面白い本だ。生産管理における、制約理論を解説した小説。利益が出せず閉鎖寸前に追い込まれた工場を立て直す、という筋で制約理論がどう働くかが分かりやすく書かれている。読んでいて目からウロコが落ちる思いをする。ただし、最後の100ページほどで生産管理以外のマネジメントの話や、全体のまとめに入ったあたりは登場人物の議論が続くだけで、あまり面白くない。

制約理論は生産過程の評価指標として三つを置く。つまりスループット、在庫、作業経費。単にコストを下げることが目的なのではなく、重要なのはスループットをいかに増やすかだ(p.459f)。スループットを増やすためには、実は一部の作業の効率を下げることが必要になることもある。大事なのは生産過程においてボトルネックになっている箇所をいかに改善すべきか。ボトルネックでもない箇所を部分最適しても、ボトルネックがある以上は全体のスループットは向上しない。そんな部分最適による過剰生産は、ボトルネックの手前で在庫の山を築くだけである(p.298f)。

こうしたボトルネックに着目することの重要性は、ハイキングでの足の遅い子どもの例を用いて説明されている(p.158)。ここはとてもうまい。みんなでハイキングするには、足の遅い子供に着目して、その子がいかに早く歩けるかを考えなければならない。他の足の早い子のことは放っておいていいわけだ。

他にも、在庫についての考えも示唆的。在庫は棚卸資産だから、会計上は資産である。だがそれは生産過程では処理すべき負債となる。在庫になってしまえば流動性がない。また、コストについての考え方。ボトルネックの時間当たりコストは、通常の方法で測ってはならない。それはボトルネックだから、生産過程の全体を止めている。したがってその時間当たりコストは、生産過程全体の生産能力となる。(p.246f)

さて、どうしても違和感を抱く論点が本書の題目にもなっている、企業の目的である。著者は「企業の目標はお金を儲けること」(p.66)と書く。だが、そうだろうか。この命題を導いている推論は、その他のどんな目標(マーケットシェアやコストの削減など)を追求しても、利益が出せなければ企業として終わりだから、というものだ。確かにコストをカットできても、マーケット・シェアを獲得できても、利益がでなければ意味が無い。
二つの論点を挙げる。第一点は小さなものだが、ここで利益と言っているのは何か。粗利益、営業利益、最終利益、EBITDA、純利益、あるいは他の利益か?本文を読む限りでは粗利益のような気がする。だが、企業の存続という点から言うならば、おそらく最も重要なのは正のキャッシュフローだろう。
第二点は、上の推論が納得できないことだ。利益は、企業が生存する必要条件に過ぎないのではないか。人間の生活に置き換えよう。確かに人生にいかなる目標を設定するにせよ、食うことができなければ意味が無い。飢えて死ぬからだ。だが、ここから人生の目標は食うことだと言えるだろうか?自分にはとてもそうとは思えない。もう一つ例を取ろう。生物種として見た一個体にとって、子孫に遺伝子を残せなければ意味が無い。その生物種は絶えてしまうからだ。だが、ここから生物個体の目標は遺伝子を残すことだ(「遺伝子の乗り物」だ)と言えるだろうか?同じように、企業の目的が利益をもたらすことだ、という見解にはどうにも納得できない。確かに、この本の話のように利益を出せず存続の危うい状況では、利益を上げることは何よりもまず重要である。だがそれは存続の必要条件であって、十分条件ではないだろう。
では企業の目的とは何だろう。ビジョンの達成なのか、顧客の創造(ドラッカー)なのか。人生の目的がそれぞれ様々であるように、企業の目的もたった一つである必要はないのかもしれない。
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