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奥村宏『企業買収』

企業買収―M&Aの時代 (岩波新書)企業買収―M&Aの時代 (岩波新書)
(1990/04/20)
奥村 宏

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企業買収とその防衛に関するいろいろな手法が書かれているのだろうと思って読んだが、著者の意図はそれよりも大きなところにあった。著者は、日米の企業買収に対する動向を解説しながら、それが示していることは資本主義が「死に至る病」に取りつかれていることだ、と指摘する。つまり、株式会社というシステムは終焉の時を迎えようとしている、と(p.215)。

現状に到るまでの歴史の話、日米の会社観の比較など参考になるところが多い。また機銃もしっかりしていて読みやすい。企業買収を巡って、株式の3つの側面--利潤証券、支配証券、投機証券ーーを概念軸として明確に打ち出しているのが素晴らしい。例えば、企業買収は支配証券という性格を明確にする。つまり、株式会社が大きくなり、株式が多数の株主に分配されると、個々の株主がもつ力は弱くなり、経営者が委任状だけで会社を支配することができるようになる(経営者支配論)。だが1960年代から機関投資家に株式が集中し始める(株式所有の法人化)。機関投資家への株式に集中はアメリカでは企業買収を盛んにさせたが、日本では法人持ち合いによって企業買収が起こらなくなっている。しかしどちらも、株式のうち支配証券というこれまで忘れられていた性質を前面に押し出した。(p.17ff)

だがアメリカの機関投資家は他人の資産を預かって株式で運用する代理人(エージェント)である。だから機関投資家はプリンシパルの利益を第一に考えなければならず、株式を保有する会社のことを考えるのではない。その株式は利潤証券、あるいは投機証券である。(p.53ff)

アメリカでは利潤証券としての株式が有力となり、機関投資家は利潤の最大化を考える。それゆえ、時にはMBOによって他の株主を排除してまで利潤を追求する。著者はこう評価する。MBOで経営者が株主から会社を奪い、閉鎖的な私企業にする(Going private)という株式会社に死刑宣告をするような事態は、「もはや株式会社というシステムが時代に適合しなくなったということを示しているのではないか。」(p.79f)

日本とはこれと違うとして、法人持ち合いという現象に焦点が当てられている。これもまた、アメリカとは違う形での「死に至る病」である(p.211-215)。法人同士が相互に株式を持ち合うようになると、株式会社の原則(自然人である個人が株主として会社に出資し、会社を所有している)が完全に崩れる。著者は落語「花見酒」を持ち出して秀逸な説明を行っている。相互持ち合いをするということは、出資金の払い戻しを受けているに等しい。またそれにより、実際には出資していない者が会社の株式を保持し支配するという不合理となる。(p.153-157,189,210-214)

こうした日米の違いは、会社観の違いにある。会社を防衛しなければならない、という日本の発想は「企業それ自体」(W.ラテナウ)があるという実体論的会社観であり、日本において会社乗っ取りを困難にしている思想的根拠である。アメリカやイギリスでは会社とは株主がただ機能的に集まったものであり、経営者は代理人Agentでしかない。株主を離れて「会社それ自体」なるものは考えられていない(p.158-166)。また、R.ドーアの捉え方も参考になる。会社とは株主のものとして会社法に定められたものだという会社観(Company law model)に対し、日本では会社法によって建前はcompany law modelを取りながら、実際はcommunity modelであり、企業とはそのなかで働く人達による共同体として捉えられている(p.190-193)。

理論的な話以外にも、日本の株式会社を乗っ取ったり、防衛した歴史の記述がとても面白い(pp.102-134)。1970年以降の安定株主工作と株式の「法人買い」は時価発行増資のためであると捉えられている。増資を時価発行で行うなら、株価が高ければ高いほど会社には多くの資金が入る。市場から浮動株を吸い上げて、それが法人買いで安定株主のものとなればなかなか売られない。すると需給関係から株価は自然と上がる。これは安定株主工作という名のもとに公認されている株価操縦である。安定株主工作は当初の乗っ取り防止から株価つり上げへと目的を変えながら恒常化したのだと言う。(p.139-142,193f,200)

思想的にも歴史的にもしっかりした一冊。かなり面白い。
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