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小林由美『超・格差社会アメリカの真実』

超・格差社会アメリカの真実超・格差社会アメリカの真実
(2006/09/21)
小林 由美

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自由・平等・民主主義を標榜し、自由競争で活発な市場経済を誇る国アメリカ。でもそこにあるのは、封建国家まがいの超・格差社会。それでも人々は明るく元気で、科学やビジネス、技術、スポーツ、芸術など、さまざまな分野でクリエイティビティが発揮され、そこで生まれたアメリカン・ライフスタイルは依然として世界中に波及し、多くの国でさまざまなアメリカナイズ現象が続いている。(p.260)


実は格差社会であるアメリカの現実について。70年代のアメリカの隆盛はどこへやら、現在のアメリカは著者が規定するように「特権階級」「プロフェッショナル階級」「貧困層」「落ちこぼれ」の4階層に分かれる格差社会である。こうした格差が広がっていくちょうどその時からアメリカで過ごしている著者には意外と驚きだったらしい。だが、そうしたアメリカをそもそも見てきた自分にはあまり驚きのない本だった。

一番参考になるのは、どうして格差が広がっていったかを税政政策の面から読み解いている箇所だった。レーガン政権のもとでグリーンスパンが取った、「ワーキング・クラスからの徴税を大幅に増やして、投資収入で生きるトップクラスの税負担を減らす」政策が1980年代以降に富の格差を拡大させていったのである。(p.77)

第4章はアメリカの建国からどういった人たちが政治的権力を持ってきたのかという軌跡だが、ここは長いしあまり特徴がない。アメリカの社会がいまどうなっているのか、格差の実体がどうであって人々はそれをどう捉えているのか。それを知るには歴史や政治の決定過程ではなくて、フィールドワークが必要だ。著者はそうした社会学的調査を行っているわけではない。たまに資料は出てくるが、人々のメンタリティーとかになると印象論が強い。叙述に深みはない。

他に面白いのは、実利的なこと以外を疎かにするアメリカの教育観について。アメリカの大学生の数学レベルが低いのは有名な話だ。著者は知恵よりも信仰、理屈による結論よりも直感的な判断を重んじるエヴァンジェリカルの思想をその源に置いている。(p.176,196)

イラク戦争の動機の一つとして石油価格のユーロ建て防止、対ユーロのドル防衛があるという話もあった。フセインは実際、2000年11月に石油の輸出価格をドル建てからユーロ建てに変更、国連への預託金もユーロ建てにした。基軸通貨としてのドルを守るのがイラク戦争のひとつの動機だという。(p.105f)

こうした格差社会のなかでも人々が希望を持っていることを、著者は結局は「移民のメンタリティー」(p.166f)に置く。アメリカでクリエイティビティを発揮しているのは、著者の言う「プロフェッショナル階級」と、自国で高度な教育を受けた後にアメリカにやってきている外国人/移民層が主だと思うのだが。トレーラーハウスで暮らすような貧困層以下がどれだけ希望を持っているのだろうか。

本来であれば貧困層であるとか、社会福祉に頼る落ちこぼれ層、従来とは違う流れを持ち込んでいるヒスパニック層の動向などがアメリカ社会の今後を考えるには重要になってくる。著者自身「プロフェッショナル階級」に属すると思うが、それより上のことも下のこともあまり見えていないように感じる。

これがいかにもアメリカらしいのだが--どの階層に属している人も、自分よりも下は怠け者だから貧しく、上は金持ちの家に生まれたから金持ちなのだ、と思っている。(p.50)
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