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網野善彦『日本社会の歴史(中)』

日本社会の歴史〈中〉 (岩波新書)日本社会の歴史〈中〉 (岩波新書)
(1997/07/22)
網野 善彦

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中巻は9世紀後半の平安後期から14世紀の鎌倉時代の終わりまで。上巻よりはやや淡白な記述と感じたが、関東が独立した勢力をなしてきて、関東と関西に異なる政体・文化が生まれるという基軸、また土地を基本とする農本主義的考えと、主に西国の海上勢力を背景とする重商主義的な考えの対立軸の取り方は、この著者らしいもの。

東国の自立で言えば、939年の平将門の乱がターニングポイントとなっている。平将門の乱において、短期間であれ、京都の天皇に対して東国に独自な国家が誕生した。このことの意義は大きく、白馬に乗った将門の姿は東国がその後自立を目指すときに繰り返し現れるイメージとなった。文化に対する影響も大きく、『将門記』はのちの軍記物の先駆としてそれまでの漢文を越える新しい文体を生んでいる。この時期に起こった、文化の「国風化」は必ずしも京都の宮廷においてのみ起こっていたわけではない。(p.18ff)

「関東」という呼称の成立はやや意外だった。1221年の承久の乱のあと、鎌倉幕府は天皇を廃し、3上皇を流罪に処した。そして後鳥羽上皇と後堀河天皇を即位させ、王朝内は鎌倉幕府に緊密な関わりをもつ勢力を中心に編成された。加えて六波羅探題を置いて朝廷の監視に当たらせた。鎌倉幕府が「関東」を自ら名乗り、京都を含む西国を「関西」と並び称したのはこれ以降である(p.116f)。ただし、承久の乱が鎌倉幕府の「関東」自認にどう関わっているのかは書かれていないのでよく分からない。そもそも、鎌倉幕府はここでなぜ天皇制を廃止せず、わざわざ後鳥羽上皇を出家から還俗させてまで天皇制を維持したのだろう?

ともあれこうして関東は関西と併存する。1232年の御成敗式目は、王朝の律令格式とは明確に異なるものである。これにより、関東と王朝、東と西はそれぞれ独自な法と機構によってそれぞれ併存した統治権を行使するようになった(p.119f)。このバランスは、元寇によって崩れる。鎌倉幕府は1281年の弘安の役(第二次日元戦争)に備えて、九州・山陰諸国に影響力を及ぼした。これにより関東の統治権は西国全体に強く及ぶことになり、王朝の基盤は一極に狭まった。(p.166f)

ちなみに、職能民や「穢れの民」、女性に対する目配せもこの著者らしいところ。西国では職能民は基本的に王朝国家の神人・供御人のもとに置かれ、神仏の直属民だったが、東国にこの制度は機能していない。東国では職能民は世俗的な主従関係のもとにある。東国には西国に比べて穢れに対する忌避感が弱かったのだろう。このように身分制についても東国「国家」と王朝「国家」はかなり異質である。(p.132ff)

農本主義と重商主義の対立は、そもそも源氏と平家の対立がこの軸の上にある。平家は瀬戸内海、北九州の海の領主たちに強い影響を及ぼしていたのである(p.81)。平安から鎌倉への展開においてこの対立が出てくるのだが、同じように鎌倉から室町への展開においても同じである。1285年の霜月騒動は、商工業・金融業などに規制を加え、荘園・公領の地頭たちの権利を強化した、安達泰盛に代表される農本主義的基調と、商人・廻船人と結びついて海上交通の支配を強化した、平頼綱など重商主義的な政治路線の対立として考えられている。さらに言えば、これは大きく転換し始めた社会の動向に対応して生まれたもの(p.182f)。同時に、この時期に何度も行われた徳政令は、貨幣流通の浸透、それによって特に土地が流動化したことに対する社会の反発の表現であり、農本主義の志向のもとにあるとされている(p.187f)。

最後にメモしておけば、1281年の弘安の役における「神風」をもとにした「神国日本」のイメージについての次の注記が目を引いた。
しかし、奇跡ともいうべき暴風による元軍の敗退を、大寺社は祈祷による効果とし、これを「神風」と強調して、祈祷に対する恩賞を王朝と幕府に強く求めた。そのなかで神明の加護する「神国日本」という見方が広く流布されるようになったが、それが一方では、関東の王権を中心に「日本国」の全力をあげ、法華経の力によって外敵から守ろうと主張した日蓮とその信徒たちに対するきびしい弾圧をともなっていたことに注意する必要がある。「日本国」意識は、たしかに元との戦争によって以前よりも列島社会に浸透するが、そこでは呪術的色彩を強くもつ神仏の力に自らの利益を見出そうとする寺社の主導した見方が優位を占めていたのである。(p.167f)
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