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ローワン・ジェイコブセン『ハチはなぜ大量死したのか』

ハチはなぜ大量死したのかハチはなぜ大量死したのか
(2009/01/27)
ローワン・ジェイコブセン

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2006年を顕著な始まりとして以降、ミツバチの大量死が起こっている。単なる大量死ではなく、ミツバチたちが自分たちの巣を放棄してどこかへ行ってしまうのだ。大量死というよりは大量失踪である。この蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder;CCD)によって「二〇〇七年の春までに、実に北半球のミツバチの四分の一が失踪したのである。」(p.13)

単なるミツバチの問題と考えるなかれ。果物を初め、ナッツ、レタス、ブロッコリ、肉牛を育てる牧草まで、多くのものがミツバチを筆頭とする花粉媒介者の世話になってる。それは私たちが口にする食べ物の80%にも及んでいる(p.28f)。CCDはそのような食物供給の崩壊、すなわち原題にある通り「実りなき秋(fruitless fall)」を意味する(この原題はもちろん、かの「沈黙の春(silent spring)」を念頭に置いたもの)。

本書は、自身もアメリカの田舎に住み自然を愛しミツバチを飼う著者が、このCCDの顛末を記したもの。ミツバチの生態、CCDの概略から、その原因を探す様々な試み、そして農業においてミツバチの置かれている位置、近代養蜂の問題点、有機養蜂へと話は続く。

何と言ってもミツバチへの著者の敬愛にあふれた記述が印象的。雄蜂、女王蜂、働き蜂、育児蜂などそれぞれの役割について、花粉を集める行動についての話はとても愉快に書かれている。非常に生き生きとした擬人化がされていて、こうした箇所を読んでミツバチの生態を知るだけでも非常に価値がある。例えば、無為徒食の生活を送る雄蜂たち(p.52)や、タンポポをどこでも目につき、誰にでも簡単に手に入る花蜜を提供する、マクドナルドだと喩える箇所(p.246f)など。

当該のCCDについてもまるで探偵小説のよう(p.95)に、様々な原因が探られる。ミツバチに寄生するミツバチヘギイタダニ、殺虫剤として散布されるネオニコチノイド、イスラエル急性麻痺ウイルス、殺虫成分を組み込んだ遺伝子組換え作物、等々。だがどれも、原因として特定されるものではない。CCDの原因は分かっていない(p.193)。著者は、たった一つの原因を求めるのは間違いだと述べる(p.237)。

著者が重きを置くのは、現代農業にミツバチが組み込まれたその仕組みである。特にカルフォルニアでのアーモンド受粉が大きく取り上げられる。カルフォルニアのアーモンド大量生産は、アメリカ中から集められるミツバチに大きく依存している。だがこのアーモンド受粉「労働」は、ミツバチには極めて過酷である。遠くのアーモンドの木と受粉させるため、蜜を取れるアーモンドの木が容易に見つからないように、ミツバチを過飽和状態にする必要がある。また、この受粉時期は2月であってそれはミツバチの自然的な活動時期ではない。2月に活動のピークを迎えられるよう、ミツバチは人工的に餌付けされ、活動期が近いのだと誤認させられる(p.167ff)。

つまり現代のミツバチたちは、利益を最大化するという経済システムに組み込まれた農業の下、多くのストレスに晒されている。ミツバチはもともと、免疫系があまり強くない昆虫である(p.186)。そう考えれば、CCDという、ミツバチたちが自らの社会性を放棄してしまうような事態が起こったとしても不思議ではない。「私たちはミツバチに無理をさせすぎ、彼らは限界に達してしまったのではなかろうか?」(p.181)

したがって著者自身の結論は、農業を経済システムのなかに入れるな(p.230f)ということになり、有機養蜂ということになる。そうした結論に賛成するかどうかはもちろん、意見の分かれるところだ。現状では現代農業のやり方がCCDの原因だと確定されたわけではない。自分には、それは現代農業とか有機農業とかいう大きな話ではなく、端的にミツバチの生態について我々の理解が足りないのだと思える。著者は、巣の形を規格化されたものではなくて、様々な大きさのものとする自然巣房が一つの解決になると語っている(p.290)。
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