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楠木建『ストーリーとしての競争戦略』

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
(2010/04/23)
楠木 建

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しょせんはビジネスなのです。戦争でもあるまいし、戦略は「嫌々考える」ものではありません。まずは自分で心底面白いと思える。思わず周囲の人々に話したくなる。戦略とは本来そういうものであるべきです。自分で面白いと思っていないのであれば、自分以外のさまざまな人々がかかわる組織で実現できるわけがありません。ましてや会社の外にいる顧客が喜ぶわけがありません。(p.65)


優れた戦略とは、ストーリーとして語った時、とても面白いものになるものである。単なる静的な分析やベストプラクティスの適用ではなく、一貫性と意外性をもった、動的なつながりをもつストーリーとして戦略を捉える。本自体がストーリーのように語り口調で綴られていてとても読みやすい。大ヒット作になったのも頷ける一冊。

普通の競争戦略の概論としてもなかなかまとまっていて、貴重だ。なにが戦略でないのか、ということを記した箇所(p.101ff)はよくよく読んでみる価値がある。まず単なる利益目標や組織改革は戦略ではない。また、ありがちなバズワードを並べたものも戦略とは言えない。競争とは企業間の違いを消滅させ単なる価格競争に落とすものであり、競争戦略とは競争上の違いを作って苛烈な価格競争から脱するものだ(p.111)。そういえば自分の会社の経営層が「戦略」として掲げたのが売上高増大、利益増大、顧客満足度向上の3つで、それを聞いて拍子抜けしたことがあるが、それは戦略ではない(まして戦術でもない)。

続く「違いの作り方」としてポジショニング理論と組織能力論を二大流派として位置づけるのも、なかなか面白かった。特にその二つのパターンの対比(p.137-165)は、参考になる。ポジショニングは競争から脱することであり、マネジメントが直接に決定し、即効性がある。組織能力は競争を受け入れ、他社が真似できない力をつけることであり、組織全体から自発するもので一朝一夕には行かない。

こうした戦略論のおさらいの後、ストーリーとしての競争戦略を作る5つのポイントを解説していく。この「戦略ストーリーの5C」がコンセプト(Concept)、構成要素(Components)、クリティカル・コア(Critical Core)、競争優位(Competitive Advantage)、一貫性(Consistency)である。これらはそれぞれストーリーの起承転結を形作る(一貫性はストーリーがストーリーとして成立するための要件である)。この観点から様々な企業の戦略ストーリーが語られ、時には奇抜な比喩(地方都市のコギャルなど)も用いて平易に語られていく。

一番のハイライトだと感じるのはクリティカル・コアだ。これはストーリーの「転」に当たるもので、その特徴は「一見して非合理」(p.316)ということである。戦略ストーリーが持続して競争優位をもたらすには、この非合理性が鍵になる。なぜなら一見して非合理であるがゆえ、競合他社はそもそも容易にこれを真似ようとする同期を持たないからだ。端的に合理的でよくできたストーリーであれば、他の企業もそれを容易に真似てきて、すぐに競争優位は失われるだろう。そこに一見して非合理性があり、「賢者の盲点」をついた「キラーパス」(p.323)になっているからこそ、持続して競争優位を確保できる。このようなクリティカル・コアは単なる「先見の明」ではない。これは確かにその通りと思えた。とても説得的で面白い論点である。

だが読みやすさの反面、自分としては読み流してしまいがちだった。今ひとつ、何か確たるものが得られなかったという印象。面白かったが、どこが面白かったのかと言われると疑問である。もともとストーリーというものが苦手な自分ゆえか。
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