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Abhijit Banerjee & Esther Duflo "Poor Economics"

Poor Economics: A Radical Rethinking of the Way to Fight Global PovertyPoor Economics: A Radical Rethinking of the Way to Fight Global Poverty
(2012/03/27)
Abhijit Banerjee、Esther Duflo 他

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世界の貧困問題について概要や解決を探った本。かなりうまく書けている名著で、Finacial TimesのBusiness Book of the Year 2011を受賞。翻訳も出ている。

世界の貧困問題はまず問題が大きい。本書の冒頭がそれをよく記している。
Every year, 9 million children die before their fifth birthday. A woman in sub-Saharan Africa has a one-in-thirty chance of dying while giving birth - in the developed world, the chance is one in 5,600. There are at least twenty-five countries, most of them in sub-Saharan Africa, where the average person is expected to live no more than fifty-five years. [...]
This is the kind of paragraph that might make you want to shut this book and, ideally, forget about this whole business of world poverty: The problem seems too big, too intractable. Our goal with this book is to persuade you not to.(p.1)

そこで本書の取るアプローチは、問題を小口化することだ。貧困は何億の人に対処する巨大な問題と考えることをやめ、解決可能な具体的な問題のセットと考えること(p.3)。本書には何百万、何億という一括りの「貧困層」を扱うというより、個人名を持ち、個人的来歴・エピソードを持った多くの一人一人の人物が登場する。貧困の状況は個々それぞれだから、あくまで個別のアプローチを貫く。もちろん、そこには制度や文化が大きく絡んでくるから、単なる個別論には終わらない。小さな改善が静かな革命を生む(p.237, 264f)、それが本書の基本線だ。"Talking about the problems of the world without talking about some accessible solutions is the way to paralysis rather than progress."(p.6)

本書が貧困問題の解決の鍵と考えるのは、貧困対策の政策を失敗させ、効果をなくす三つのI(ideology, ignorance, inertia)を改善すること(p.16, 258-260)。貧困政策を支配している、貧者は生まれつき愚か、近視眼的だとする差別観(p.185)・イデオロギー、貧困層への配慮の無さ、行政の無気力さを改善することだ。

本書全体を通して印象に残るのは、「貧者は愚かだから貧しいのだ」という考えへの抵抗だ。そういう大上段に構えた物の見方をせず、一人の人間として向き合うこと。貧者は愚かなのではなくて、正しい情報が得られていない。しかも正しい情報がない中では合理的に行動しているし、情報が得られれば状況は改善しうる。健康問題について言えば、健康問題による貧困の罠から抜けるハシゴはあるが、正しい場所にないし、人びとははしごの上がり方を知らない(p.50)。生殖について言えば、途上国の未成年の女性は何も知らないから妊娠する率が高いのではない。彼女らはきちんとコントロールし、自分で道を選んでいる(p.128f)。合理的に人間として解釈すること(p.115)。ワクチン接種を非科学的な信念で拒否しているように言われるが、その行動は行動経済学・脳神経学的には"time inconsistency"という概念で説明できる。行動経済学を取り込んで施策を考える(p.64-69, 194-200)。

こうして栄養、健康、教育、生殖、保険、マイクロクレジット、貯蓄、起業と章立てでそれぞれ問題が扱われる。個々の論点はクリアで、インドでのNPO活動や統計結果に基づくなどの具体性がある。その結論に賛成するかはともかくとして、議論は参考になることが多いだろう。

以下、個々の論点を拾う。

栄養について。少なくとも現代では、貧しい人たちは食えないために働くだけの力が得られず、貧しいまま留まるのではない。必須カロリーは彼らの収入でも得られるし、収入が増えても彼らは摂取カロリーを増やさない(p.22-27)。必要なのはカロリーでなく栄養だ。特に胎児や幼児に必要で、栄養の改善は生涯賃金を大きく変える。所得が増えても貧しい人々は自分の欲しいものを買うので、直接栄養補助の食べ物を援助すべきである。虫下し薬、鉄分、ヨウ素が必要だ(p.38)。

健康について。女児のほうが経済的なリターンがないし、親が老年になったとき援助するのはたいがい男児なので、女児は敬遠されている。これはインドや中国における極端な男女比に現れる。女児が端的に胎児段階での性別選択で拒否されることもある。また、女児が生まれた過程は早く男児を産もうとして女児の乳離れを早くし、これが女児を清潔でない飲水に晒すことになり、下痢による死亡の可能性を高めている。多くの経済学者が見たくない現実としてブラックボックスにしまっていた事実だ(p.119-123)。

教育について。どんなレベルの教育でも効果があり貧困の罠はない。だが親たちは教育はある程度以上にしか効果がないと思っていて、それが逆に現実を作り出している。その思いは植民地時代の名残だ。植民地時代の教育は一部のエリートのためのものだった。できない子を支援する空気がそもそもない(p.89-94)。

マイクロクレジットについて。マイクロクレジットは確かに機能しているが、奇跡的な成功ではない。起業はそんなに増えていない。まず、グループに対する貸付なので、ビジネスにかかわりたくない人はグループにそもそも入らない。借りて一週間後からの返済も柔軟性を欠いている。グループ返済だから、他の人は返済しないだろうと言う思いが広がれば破綻する(p.168-177)。また、マイクロクレジットは中規模の企業には届いていない。ここは銀行もアプローチできていない空白地帯だ(p.176-181)。

貧困層の起業について。貧困層には自営業が多いが、これは企業家精神とは言いにくい。ある程度の投資をしなければ利益は増えないと知っているので、少額の投資には興味がない。彼らが自営業なのはむしろやむを得ない事情の結果。(p.223-226, 233f)(これは日本にもある。起業が多いのは40、50歳代で会社を放り出された人たち)
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