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レザー・アスラン『変わるイスラーム』

変わるイスラーム 〔源流・進展・未来〕変わるイスラーム 〔源流・進展・未来〕
(2009/03/21)
レザー アスラン

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イスラム教の歴史と現在について、冷静で中立的なものが読みたければこの著者のものを読むのが良い。著者はジャーナリストであり宗教学者、さらに小説の訓練を受けている。その筆致は鮮やかだし、ともあれ説得的。各章の冒頭に出てくる小説仕立ての記述もとても分かりやすい。

現代まで視点に据えているとはいえ、基本的にはイスラムの歴史についての本。著者自体の現代のイスラムについての見方、すなわちイスラムは宗教改革の真っただ中にいる(p.28)という見解については、メインに展開されるものではない。著者によれば、昨今の原理主義を含むイスラムの動きは内部抗争であって、キリスト教とイスラム教の対立のような構図は間違っている。キリスト教の宗教改革でもいくども戦争が起こり、多くの人が死んだ。9/11のテロのようなものは、いわばこうした宗教改革運動に周りが巻き込まれたものであって、欧米は当事者ではなく、単なる傍観者なのだ(p.338)。

イスラムが誕生する背景となる6世紀アラビア半島の多神教状態と、ハニーフの登場、そしてムハンマドへの影響についてよく書けている(p.47-53)。著者が歴史を語る眼目は、イスラムの教義がこうした時代背景のなかで成立してきたことを示すことにある。ムハンマドの唱える平等主義について、メッカのカーバ神殿を支配する特権階級クライシュ族と格差社会を参照している(p.69f)。イスラムは元来、寛容で多元的であるし、そもそもイスラムは一つではない(p.355f)。女性の権利についても、現在のイスラムには本来のクルアーンの平等主義と、後のハディースにおける伝統社会の考えが混入していると語る(p.114-122)。

ムハンマドの死をきっかけにした後継者争いや、その過程にコミュニティの力関係が複雑に絡んでくる様子もよく書かれている。ハーシム家に宗教的権威と政治的権威が両方とも備わることへの警戒(p.174-177)、カルバラーでのフサインの死を原罪と考えるシーア派(p.253f)。原理主義者サウード家とサウジアラビアがイスラムのなかでは少なくとも典型例ではないこと(p.336)、その原理主義への反動としての国王のイギリス化、そして再反動としてのアル・カイーダの誕生はすっきり書かれていて面白い。

重厚な一冊だが読みやすいしじっくり取り組むにはよい本だ。
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