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ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄 (上)』

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
(2012/02/02)
ジャレド・ダイアモンド

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有名なベストセラー。人類の歴史について、特にある人間集団(西ヨーロッパの人々)が他の国を圧倒し、征服するようになったのはなぜかについて書こうとしている。著者は歴史家や考古学者ではなくて進化生物学者なので、進化生物学の知見をふんだんに盛り込んでいる。議論はとても読みやすいし、実例が豊富なので飽きない。論旨も明快だ。

話は約13000年前から始まるのだが、いきなり第二章でニューギニアを中心としてポリネシアの話が出てくるのが面白い。著者自身がニューギニアをフィールドワークの中心としていたこともあるのだが、世界史の本でニューギニアがまっさきに出てくる本もないだろう。ポリネシアは大小様々な島からなり、また緯度・経度が互いに離れていて気候・植生が様々。したがってポリネシアは人類の発展についての実験場であり、その中でも比較的恵まれていたトンガやハワイについて著者は、あと数千年あれば巨大帝国となれただろうとまで評価する(p.118-120)。

なぜある人間集団が隆盛を誇るようになるのか、という問いへの端的な答えは、大陸が東西に延びていて分散が容易だったから(p.153)となる。東西方向(経度)の広がりは南北方向(緯度)の広がりと違って、日照時間や季節の移り変わりが似ている。したがってある地域で栽培されるようになった野生種は容易に他の地域に広がるし、家畜化するに至った動物を伴って移動しやすい(p.341-346, 352-356)。こうした農業の発展はあらゆる地域で起こったわけではない。ある地域ではあまり栽培するだけの野生種に欠けていたりする。だが著者がつねに慎重に語っていることだが、これはその土地の住民にも野生種そのものにも責任はない。問題は特定の野生種ではなく、その種類が限られていたから技術が発展しなかったことにある(p.286-288)。北米大陸ではリンゴが栽培されなかったが、時間があればアメリカ先住民もその栽培方法(接ぎ木による方法)を見出したであろう。

著者の独自の視点は、おそらく病原菌への着目にあるだろう。著者によれば、ある集団がある集団を滅ぼすのは、鉄器などに代表される武器にもよるが、それよりも持ち込まれた「たちの悪い病原菌」(p.361)によるという。西欧の人々がアメリカ先住民の勢力やインカ帝国を衰退させたのは銃や剣よりも病原菌によってなのである(p.386-390)。では西欧の人々はなぜ北米大陸に行った時に現地の病原菌にやられなかったのだろう(アフリカへの進出は北米大陸とは事情が違い、まさに病原菌が進出を遅らせる原因になった)。それは西欧では家畜がずっと飼われており、人々は家畜由来の病原菌にずっと晒され、免疫ができていたのだ。この西欧からの「とんでもない贈り物」が人類史にとって大きな役割を果たしている(p.393-395)。

さて上巻を読んだだけの疑問点。第8章から第10章にかけて、著者は農業と家畜化の進展においてチグリス・ユーフラテス川流域の肥沃な三日月地帯に着目している。とすると人間集団はなぜ西欧において隆盛となり、中東地域で隆盛とならなかったのか。また、最終的な西欧の発展の元となっている産業革命に向かってどう説明がなされるのだろう。
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