いま話題のくまモンについて、そのプロモーションを実際に担った人が軽いタッチでその経過を書いたもの。マーケティングの実際の展開例の読みやすいものとしてかなり参考になるだろう。三部構成になっており、第一部は大阪でのマーケティングの様子、第二部は熊本県内での展開の様子、そして第三部は熊本県知事から見た戦略となっている。もともと大阪チームが書いた私家版を基にしているため、メインの記述は大阪での展開となっている。第二部と第三部は付け足し。
2010年春から始まるこのプロモーションの成功の様子は読んでいて面白いし、マーケティングの初心者どころか、しがらみの多い地方公務員のチームが成し遂げてきた実績は素晴らしい。ちなみに、本書はくまモン成功のポイントを次の5つにまとめている(p.223)。
1 ターゲットを明確にする
2 TPOに合ったメディア戦略
3 SNSの最大限の活用
4 くまモンの爽快な動き・表現の豊かさ
5 くまモンを活用したPR・後方へのトップの理解と支援
個人的には以上の5つとは違うところが成功のポイントと感じた。まず、(1)ティザー広告の手法の採用による、謎かけの仕方とサプライズの供給(p.22,54f)。(2)各地のゆるキャラとの交流によって、お互いにお互いを紹介する仕方で広まっていったこと。言い換えれば、ゆるキャラブームをうまく利用したこと。(3)県単位の広いイメージを担っているキャラクターであること。市町村単位ではない。(4)キャラクター使用料を無料にし、民間企業の製品にキャラクターを取り込んでもらうこと、またその際、熊本県産品に関連付けること。地方自治体という公共機関の仕事としてはこれは思うよりハードルの高いアプローチである(p.148f)。(5)様々な試みに対するトップからの信頼とバックアップ、コミットメント(よしもとの舞台に知事本人が出るなど)。それによる、挑戦と失敗を恐れないチームの構築。(6)そして何よりも、このチームが大阪のチームであり、本体の熊本から遠くはなれており自律した動きのできるチームであったこと。
個人的にはやはり大阪で活動するチームという点が大きいと感じた。他のゆるキャラのプロモーションにあまりなかった点はこれかもしれない。大阪で主体的に活動する、熊本本体から目の届かないところで自由にできる、九州新幹線の全線開業というイベントによる偶然だったのだろう。そしてこれを駆動したのは、九州新幹線の全線開業により熊本が単なる通過点となり埋もれてしまうという危機感だった。
根本にはそうした危機感、焦燥感があると言えるだろう。逆に言えば、くまモンが有名になってこの危機感が失われた時、それが一番危ない時だろう。本書には世界展開を含む、かなり脳天気なアイデアも散りばめられている(p.160-180)が、もともとこのプロモーションを支えているものが何なのかを考えると、早くも危うい様子だ。
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