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Steve Coll, "Private Empire"

Private Empire: ExxonMobil and American PowerPrivate Empire: ExxonMobil and American Power
(2012/05/01)
Steve Coll

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700ページほどある長大な本。世界最大の企業ExxonMobilについて、世界中におけるその活動を詳細に描いたもの。Financial Times and Goldman Sachs Business Book of the Year 2012を受賞。この賞を取った本は毎年読むようにしている。

描かれているのは主に、1989年のバルディーズ号原油流出事故以降の動き。この事故を受けてそれまでも厳格であったExxonのマネジメントがいかに変化したかから語られる。CEOでいうとLee RaymondとRex Tillersonという二人の時代を扱っている。記述は実に詳細であるし中立的。よくここまで調べたものだという印象を持つ。後書きを読んで分かるが、ExxonMobil社は取材に協力的ではなかった("The corporation was the only part of the dozens reached during the fact-checking process that declined to participate."(p.631))。このような状況でここまで事態を活写するのは並大抵のことではない。ちなみにそういう状況かだからか、Wikileaksが公表したアメリカ大使館からの外電も資料として多く採用されている。

ExxonMobilの売上高はスウェーデンのGDPほどある。アメリカの企業であるために、アメリカ政府の方針に従いつつも独立した動きを取っている。海外の産油国での活動として挙げられているのは、(順不同で)インドネシア(アチェ)、ナイジェリア、赤道ギニア、チャド、ベネズエラ、イラク(北部クルド地域を含む)、ロシアといったところ。アメリカ国内問題としては先述のバルディーズ号事件のほか、地球温暖化問題への態度、オバマ大統領選挙との関わり、ジャクソンビル石油流出事故(ガソリンスタンドの石油タンクから石油が漏れ、周囲の土地を汚染した事故)、シェールガス(XTO社の買収話を通じて)などがある。ExxonMobil内部の話としてはLee RaymondからRex TillersonへのCEO移行の話が面白い。

記述が中立的であるのも好ましい。地球温暖化問題を筆頭として、ExxonMobilの活動に対して批判的に捉えられる事柄もたくさんあるが、性急な価値判断を避けて事実が何かを冷静に書こうとしている。それはアチェでインドネシア国軍とどう関わったのか(ExxonMobilはアチェでの虐殺に関与したのかどうか)、赤道ギニアやチャドでの汚職にどう関係しているのか、はたまたイラク戦争、BPがメキシコ湾で起こした原油流出事故への対応等々に現れている。事実関係を押さえて事態をビビッドに描く手法は感服したもので、特にチャド、赤道ギニアの大統領との関わり、ロシアでのホドルコフスキー失脚の話などは極めて面白い。ただ、現在の視点からみるとシェールガス・オイルの話題については、アメリカの地政学的状況やExxonMobilの将来に与えるインパクトからしては乏しいと思われるし、いわゆる再生可能エネルギーや新エネルギーについてはほとんど語られていない。また、ExxonMobilを描いているとはいえ、基本的には上流工程(産油採掘)のみに偏っており、下流工程(石油精製、小売販売)の記述が弱い。

ただ結局、著者はこうしたExxonMobilの世界中での活動を描くことにより、何がしたかったのかがよく分からない。"Private Empire"というタイトルが付いているのだが、この含意もよく分からなかった。著者は、ExxonMobilが資源開発の技術提供をネタとして、産油国に一種の植民地を築くような帝国主義を取っていると言いたいのだろうか。それにしては記述は冷静である。取材は極めて綿密であるし、ここまでまとめ上げる力量には驚嘆するのみだが、こんな膨大な記述を基に本書は何のために書かれたのかが分からなかった。
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