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森茂暁『皇子たちの南北朝』

皇子たちの南北朝―後醍醐天皇の分身 (中公新書)皇子たちの南北朝―後醍醐天皇の分身 (中公新書)
(1988/07)
森 茂暁

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南北朝時代を、後醍醐天皇の皇子たちを通して描いたもの。後醍醐天皇の子どもは非常に数が多くて、『太平記』によれば母親20人から男児17人、女児15人もいる(p.198)。本書は彼らのうちから護良親王、義良親王(後村上天皇)、宗良親王、懐良親王を大きく扱っている。その他、尊良親王、恒良親王、成良親王などが登場する。日本各地に散らばり戦いを繰り広げたものが多いが、仏門に入り静かに伝統的な道を歩んだ法仁のような人物もいる(p.216)。南北朝の激動の時代における、これら親王たちについて著者は記す。
鎌倉末期から南北朝時代へと展開する未曾有の動乱によって歴史の檜舞台に押し上げられた、いわば南北朝動乱の落とし子なのである。彼らの南北朝時代氏における役割は、この動乱によって性格づけられているが、この時代の政治史の展開のなかに占める彼らの役割は実に大きい。父帝の分身として、各地方で軍事活動に専念した皇子たちの姿は、記紀の伝承にいう「四道将軍」を想起させる。彼らの個性豊かな活動の足あとは、南北朝史にあざやかに刻されているのである。(p.220)


親王たちは父親の後醍醐天皇の天皇専制の理想を実現すべく、各地方に赴いて北朝側の足利勢力と戦いを繰り広げている。初期に仏門に入り、後に還俗して地方に赴く親王が多いが、これは所領を巡る寺社と室町幕府の対立を利用し、寺社との結びつきを深めるという側面もあった(p.10-22)。例えば護良親王(法名は尊雲)、宗良親王(法名は尊澄)は天台座主となっている。南朝勢力はこうした寺社と幕府の対立を利用したりしたものの、脆弱な南朝が60年ほども持ったのは、結局は室町幕府の体制の未熟さと内乱によるものである(p.104)。

なかでも護良親王と懐良親王の記述がまとまっており、とてもよい。護良親王は宮家にありながら武勲に優れており、後醍醐天皇の鎌倉幕府倒幕において重要な役割を果たしている。護良親王の目指したものは、宮将軍、つまり「親王の身でありながら、武門の棟梁の地位をめざしていたらしい」(p.44)。こうした護良親王の動きが足利尊氏と正面衝突することは自明である。武門の棟梁を巡る争いである(p.60)。のみならず、宮将軍という護良親王の政治抗争は、自らによる天皇専制を旨とする父・後醍醐天皇の政治思想とも対立する(p.53)。その最期は足利尊氏を討たんとして総攻撃をかけ敗退するわけだが、これをけしかけたのが他ならぬ後醍醐天皇であると『梅松論』は記している(p.64)。つまり、最終的に父親に厄介払いされたわけである。後醍醐天皇の期待は成良、義良といった時代の親王に移っており、「いわば倒幕の一事にすべてを燃焼させた護良の役割は、もう終わっていたのである」(p.60)。護良親王は足利尊氏に捉えられ、足利直義より鎌倉に幽閉される。そして中先代の乱で足利直義が鎌倉を離れる際、殺害された。享年28歳。

懐良親王は薩摩から入り征西将軍として九州全体をほぼ抑え、南朝勢力の中では大いに成功した事例である。薩摩・谷山を拠点とした島津氏との攻防、阿蘇氏を何とか味方につけようと様々な手を尽くすが叶わず、菊池氏を頼むことになる経緯などよく書けている。面白いのは明との交易である。大宰府にあった懐良親王は独自に明との交易を行い、何と「日本国王」とも呼ばれている。後に足利義満がこの称号を明から受けていることが重要なポイントとなるのだが、それ以前に懐良親王が受けている。しかも懐良親王の死後、今川氏に破れて隆盛はない時でもまだそう呼ばれているのは印象的だ(p.186-190)。

南北朝時代は諸派が入り乱れ、ある人は南朝についたと思えば北朝に付き、また南北朝だけでなく足利直冬の九州勢力との三分立状態になったりする。したがって立場や観点から様々な描き方があり、だからこそとても面白い時代である。後醍醐天皇の皇子たちという視点から書かれた本書もまた一つの記述としてとても魅力のある一冊だ。
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