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ジョージ・ケナン『アメリカ外交50年』

アメリカ外交50年 (岩波現代文庫)アメリカ外交50年 (岩波現代文庫)
(2000/10)
ジョージ・F. ケナン

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素晴らしい本。冷静な状況分析に基づく、透徹した視点。およそ50年前の出来事について書かれた本でありながら、いまでも現実的。本書は米西戦争から二つの世界大戦、そしてベトナム戦争までのアメリカ外交について語る。

基本的には批判的な調子。アメリカ外交のなかに、いかに状況離れした考えが入っているかを分析していく。それは法律家的・道徳家的な考えと呼ばれる。自由や民族自決といった、とりあえずはどの国も受け入れるであろう、大原則を振りかざすアメリカ。それは、アメリカとはそのような考えを世界に要求することのできる国なのだ、と自己納得するナルシシズムである。現在でもこんな分析がアメリカ外交に当てはまりそうなことに驚く。そんなに簡単に変わるものでもないのだ。


amazonに読書記掲載。「違反している」が引っかかった。「反している」に変えたら通った。なんだかなぁ。
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米西戦争からベトナム戦争まで、主に戦争におけるアメリカ外交を批判した本。著者は長く外交官を務め、まさにアメリカ外交の第一線に立ってきた人物。「ソ連封じ込め政策」の提唱者として知られる。翻訳はやや堅いが、文章はとてもクリアである。複雑きわまりない国際関係を分析する力には感嘆させられる。

第一章の米西戦争の分析からして、引き込まれる。キューバを巡るスペインとアメリカの対立。しかし当時のアメリカ大統領マッキンレーは戦争を始めるつもりはなかった。しかし膨張主義者たちの様々な思惑により、アメリカは戦争へ向かう。そして、この戦争に乗じたフィリピン領有。これらの動きが、いかにアメリカの国益をよく検討せずに、時流に流されるように起こっていったか。素晴らしく冷静な筆致で描かれている。読むにつれ引き込まれていく分析である。

第二章以降は、アメリカ外交の特質をなす、ある一点を巡る。それは「法律家的=道徳家的(legalistic-moralistic)アプローチ」と著者が呼ぶものだ。これは、ある原理的な法的規則によって、各国の野放図な野心を押さえ込もうとするアプローチを言う。例えば、民族自決主義、中国の門戸解放主義、自由と人権などである。このアプローチは、規則によって規制しようとするために、各国の利害の詳細な分析が軽視される。個々の状況に応じた柔軟な対応ができなくなるのだ。またこのアプローチは、国際政治に法的善悪を持ち込むことになる。この規則を守るアメリカは、守らない無法者に対して道徳的優越感を得る。さらにこの無法者は法的規則に反しているのであり、したがって「罰せられる」べきなのだ、という帰結となる。かくしてここには妥協はない。すなわち、戦争を無くそうとする誇り高きこの道徳心に基づく戦争は結局、無法者が法的規則を承認し全面降伏するまで終わらない。妥協による早期決着は望めない。皮肉な結果だ。

著者を有名にした「ソ連封じ込め政策」もこの観点に基づくもの。ソ連はアメリカとはまったく違う政治体制にある。ソ連の社会主義思想は、資本主義は必然的に崩壊して社会主義に至る、と考える。社会主義にとって、資本主義は定義上、敵なのだ。資本主義と社会主義は共通の目的を持ち得ない。アメリカに必要なのは、高邁な思想でソ連を変えようとすることではない。その膨張を押さえ、ただソ連の体制の崩壊を待つことである。ここには原理原則を離れ、実際の国際関係を見つめようとする視点がある。

本書を読んで驚かされるのは、この分析が現在のアメリカ外交にも通用するように思われることだ。高き道徳的規則を掲げ、他国にそれを遵守することをただ求める。守らない国は無法者として、徹底的に打ちのめすことを目指す。各国の利益に基づく詳細な分析や交渉ではない。無法者とは交渉しない。例えば近年のアフガニスタン、イラン、イラク、北朝鮮に対するアメリカ外交のある側面ではないだろうか。もちろん、著者も言うようにこれはアメリカ外交の一側面でしかない。さらにこのアプローチは、アメリカ西部、アラスカやハワイのアメリカ併合の経験に基づく。これら州は道徳的規則に同意することをもって編入されてきた。道徳的規則に対する、個々の州の個的同意、自由を尊重することの裏面なのだ。だが、それが国際関係で通用するとは限らない、と著者は何度も訴える。

本書は現在にまで通じる視点をもった素晴らしい本である。分析は明晰だし、文章もクリア。歴史的興味で終わるものではなく、現在のアメリカを考える点でも重要な事柄を教えてくれる名著だ。
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