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レイ・フィスマン、ティム・サリバン『意外と会社は合理的』

意外と会社は合理的 組織にはびこる理不尽のメカニズム意外と会社は合理的 組織にはびこる理不尽のメカニズム
(2013/12/14)
レイ・フィスマン、ティム・サリバン 他

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軽いタッチで読みやすく書かれた組織経済学の本。会社だけでなく軍隊や教会を含む、組織一般において一見不合理に見えるような現象を、組織経済学の視点から解明しようとしている。それらの不合理に見えるものは、利害や目標のトレードオフのなかでもっともマシなものなのである(p.12f)。

組織経済学は経済学のなかでも傍流に置かれがちな分野だ。経済学というとミクロ経済学やマクロ経済学といった、究極的には価格の決定メカニズムがすぐに頭に浮かぶ。こうした理論は価格が我々の作為とは別のところで、つまりかの「見えざる手」で決まるという発想にある。需要が増えれば価格は上がる。供給が増えれば価格は下る。だが、ここで実際に価格の決定(あるいは設定)をしているのは個々の企業だ。その中には価格を決めている人がいる。つまりこうした経済学では企業をはじめとする組織内の人間行動をブラックボックスにしている(p.30-34)。この組織内の人間行動を研究するのが組織経済学である。例えば現在の効率的な企業を可能にしたのはプロの経営者と中間管理職からなる組織だという組織経済学の認識があり、これはチャンドラーのいう「見える手」なのである(p.165-171)。

本書はおそらく組織経済学の概念で一番有名な、インセンティブの話から始まる。インセンティブを与えれば、人はそれに従って動く。インセンティブの設定の仕方がまずければ、不合理な結果を生む。例えば逮捕の数を巡査の報酬に連動させたボルチモア市警。結果として逮捕しやすい軽い犯罪によって大量の市民が逮捕され、重大な犯罪は放っておかれた(p.54-57)。結果は不合理だが、実に合理的な過程だ。組織には一般的にエージェント問題があるが、インセンティブによってこれを解決するのはとても難しい。働く意欲を引き出す適切なバランスを見出すのが難しいことを、いくつもの具体例で著者は明らかにしている(p.47-83)。メソジスト教会の成立過程や、信者獲得の軌跡を取り上げているのが面白い(p.89-103)。邦題だと会社の話の本に見えるが、実際は一般的に組織を扱った本であり、こうした教会やはたまた軍隊の話、さらにテロ「組織」アルカイダも出てくる。

他にはイノベーションについて興味深いことが書かれている。イノベーションを起こす組織は少ない。それは単に大企業病などの問題ではない。例えば、マクドナルドがその初期の段階でイノベーションを広範に認めていたらどうなるか。フランチャイジーが勝手なことをやりはじめたら。収拾もつかなくなるし、マクドナルドが何の会社なのか分からなくなるだろう。つまり、イノベーションを抑圧するのはブランドを守るためであり、一貫した品質を守るためなのだ(p.125-133)。これは極端な話だが、まさにイノベーションはその余地を残しつつ、組織としての統一性を保つのが難しい事柄である。著者は軍隊の例を引いて解決の方向を示そうとしている。軍隊こそ組織の中の組織であり、厳密な指揮命令系統が必要とされる。とはいえ、新たなタイプの敵に対応できるよう、イノベーションは必要だ。そこで、アメリカ陸軍はウェストポイントという教育機関と、その中でも特にSOSH(Social Scienceの略)に特別な地位を与えて、そこでイノベーションを許している。こうして強固な指揮命令系統とイノベーションの両立を図っている(p.146-153)。

また管理職について。日本の企業でも無能な管理職がいるように、管理職というのは不合理な行動をしているようにみえる。実際に作業しない管理職は、組織の中でどんな合理性を持っているのか。著者によれば、それは組織の均質性を保つ役目を担っているのだという。管理職は上からの方針を組織の下部に浸透させ、また組織の下部で起こっている事柄を上に伝達する役割を持つ。管理職が無能なのではなく、会社の実態を把握するという仕事がそもそも効率の悪いものなのかもしれない、とまで書かれている(p.178-182)。

その仕事が80%が会議であると言われるCEOの行動についても面白い。CEOはなぜそんなに会議に出てばかりいるのか。これは当たり前だが会議に出ることが合理的だからだ。会議という、対面でしか得られない・伝えられない情報があるからだ(p.194-198)。会社の実態を把握するのに数字や単なる文章では伝わらないことは多々ある。会議でそうしたノン・バーバルな情報が得られる。また、リーダーシップとは文化を醸成して組織の方向付けをすることだが、こうしたことも文章にしづらい(p.253f)。

というように、組織内の一見不合理な行動を組織経済学で軽く説明しようとした本だが、ちょっと読みにくい。誰もが不合理と思う行動→その事例→組織経済学の概念を使った解明→なるほど!、といった形の記述になっていない。最初のインセンティブの話はだらだらとずっと続くし、論の流れがいまひとつはっきりしていない。発想や題材はいいのに少しもったいない。
大きな組織内で勝手連的にネットワークが形成されることの危険性は明白だ。説明責任、調整、監視、職務と責任の定義といったものがすべてうやむやになってしまう。そもそも組織が存在するのは、そうしたものをはっきりさせるためだ。(p.311)
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