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松岡完『ベトナム戦争』

ベトナム戦争―誤算と誤解の戦場 (中公新書)ベトナム戦争―誤算と誤解の戦場 (中公新書)
(2001/07)
松岡 完

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ベトナム戦争について多面的に論じたもの。ベトナム戦争は計6つの視点から論じられている(p.vii)。すなわち(1)米ソ冷戦の一場面として、(2)南ベトナム内の反政府勢力(民族解放戦線や臨時革命政府)と北ベトナムのせめぎ合い、(3)中国と北ベトナムの駆け引き、(4)アメリカと南ベトナム政府の困難、(5)アメリカと東南アジア諸国の覇権争い、(6)アメリカ国内の政府と世論の争い。ベトナム戦争というとすぐに浮かんでくるのは、冷戦の一場面としてのアメリカ対北ベトナムだが、この本は複数の視点からベトナム戦争を論じることにより、埋もれがちな多くの見識を与えてくれる。

視点それぞれを章分けしているので、章ごとに時間が行ったり来たりするし、記述のその都度でその都度の出来事が取り上げられる。一貫したベトナム戦争の通史のようなものはないので、全体の見取り図をまず把握していることが前提となるだろう。また、基本的に政治的側面に限られた記述となっているため、実際の戦争の様子、すなわち戦史や、戦争における人々の様子は書かれていない。

興味深かったのは南ベトナム反政府勢力と北ベトナムのせめぎ合い。ベトナム戦争は北ベトナム(ベトナム民主共和国)と南ベトナム(ベトナム共和国)の内戦という様相もある。この構図において南ベトナムの反政府勢力は一見、北ベトナムの手先、北ベトナムが南ベトナムと戦うための手段に見える。しかし南ベトナムの反政府勢力にはそれなりの考えがあり、指令するハノイの北ベトナム政府と微妙な対立を含んでいた。実際に戦い、南トナム政府を倒したのは自分たちだという矜持もあり、サイゴン陥落後、南ベトナムの臨時革命政府は北ベトナムと別個に国際連合に加盟申請を行ったりもしている。だが結局は北ベトナムに吸収され、「ハノイの指導者たちに裏切られたことになる」(p.92f)。

また、南ベトナムに傀儡政権を樹立し、それを何とかコントロールしようとするアメリカの苦悩が書かれている。特にアメリカが担いだゴ・ディン・ジェムの治世に詳しい(p.158-172)。南ベトナムに民主主義的な政権を樹立しようとするアメリカのお題目に反して、ジェムは地縁と血縁が重用される縁故的運営(「ジェムクラシー」)を続けた。南ベトナム政府軍の士気と忠誠心は異様に低く、脱走兵や命令への不服従が続出する事態。ジェムに代わる人間を立てようにもまともな候補がいないといった状況が書かれている。

1972年に和平協定の調印への交渉が進んでいたさなかの年末、アメリカは戦況がほぼ北ベトナムの勝利で決していた中、あまりもう意味のない北爆を行う。それについての記述が実に原爆投下の論理を思い出させた。
いったん北爆を北緯20度以南に限定していたニクソンだが、ハノイが合意を拒否すると、12月18日には北爆を全面再開した。ラインバッカーII作戦、俗に「クリスマス爆撃」と呼ばれる。ハノイ、ハイフォンにはあわせて12万トンの爆弾が降り注いだ。それはナチスの大量虐殺にも匹敵する蛮行だと批判された。図体が大きく、速度の遅いB52爆撃機はしばしば対空砲火の餌食になった。しかし、昼夜を分かたぬ敵中枢部の徹底破壊がハノイを追いつめ、戦争を早期に集結させたのだとする見方も米空軍首脳を中心に根強い。(p.49)
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