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志賀浩二『数学という学問 I』

数学という学問〈1〉概念を探る (ちくま学芸文庫)数学という学問〈1〉概念を探る (ちくま学芸文庫)
(2011/12)
志賀 浩二

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数学における概念が、いかなる背景でいかにして発展してきたかを語ろうとするシリーズの一冊。この本は大きく言って実数概念の由来をたどっている。まず、自然数や整数、有理数とはじまって実数が理論的にどう定義されてくるかを述べている。ここはワイエルシュトラスのε-δ論法やデデキントの切断で実数を導入する。

実数概念の簡単な導入の後、その歴史に話が進む。ポイントは、実数概念の成立に当たって寄与したのは物理学だということだ。ニュートンやライプニッツが17/18世紀に物理学(おもに天文学)に後半に数学を用い始める以前、数学にあったのは幾何学と代数学。これらは基本的に離散的で静的な関係を扱っている。静的なものと考えられきた数が(変数として)「動く」という考え方の変革が、物理学からもたらされる。そしてそれが変化の記述としての微積分、そして微積分の精密な基礎としての実数概念につながっていく。

端的にそれは数直線という表象に求められる。自然数、有理数、実数といった由来からしてそれぞれ異質な数が、数直線という表象の上に一元化される。この上を数が「動く」。数直線は幾何からでなく、惑星の運動の軌跡を時間の流れのなかに表すところ、すなわち関数のグラフから生まれた(p.71-73)。数直線の上に実数は小数として表される。実数は分数ではすべて表記できないから、小数の考えは実数概念の発展にとって本質的である。そこで著者は、小数(小数点表記)を生み出したネピア(ネイピア)を大きく取り上げている。通常ネピアは対数の発見者として取り上げられることが多い。この発見は、対数を使って積を和に変換することにより、天文学における惑星軌道の膨大な計算を緩和する意図のもとにあって、物理学(天文学)から数学への展開として描かれている。それと同時に、小数の発見も大きな功績だろう(p.141-152)。

このような概念的基礎の上にニュートンとライプニッツの微積分がある。そしてその基礎を探るなかでコーシーの極めて明晰な議論が扱われる。ニュートンとライプニッツは伝記的事項も含めて独立してやや詳しく扱われている。なかでも、彼らは微積分を、何らかの数学的問題を解決すべく発見したのではなく、まったく新しい世界を拓いたのだ(p.207f)とする評価が印象的だ。

一つ気になるところ。著者は現代的な関数の捉え方としてディリクレの文言を取り上げる(p.88f)のだが、著者の理解とずれているように見える。このディリクレの文言はけっこう曲者で、彼によると関数の定義は変数間の関係が数学的に記述されることを要求しない。しかし著者はこの文言を受けつつも、関数が私たちによって認識されることや、変数間の規則が与えられていることを述べている。この関数の認識は実数概念が明確になってきた後、実数値上の病的な関数を扱うなかで形成された。その含意は、関数は我々によってその規則が認識されること、規則が与えられることに一切依存しないということだ。自然数や有理数からの実数の説明や、惑星軌道からの実数の説明では、この関数概念とそれに伴う実数の性質は明らかになってこない。しかしこれは可算濃度と非可算濃度の違いから広範で自由な数学の領域を拓くことになる。本書ではこのことはほとんど出てこないが、続巻で扱われているのだろうか。
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