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山川喜輝『理系なら知っておきたい生物の基本ノート [生化学・分子生物学編]』

理系なら知っておきたい生物の基本ノート [生化学・分子生物学編]理系なら知っておきたい生物の基本ノート [生化学・分子生物学編]
(2005/04/07)
山川 喜輝

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とても楽しい読書。高校の生物の教科書から大学の生化学・分子生物学の授業への橋渡しをするように意図されている。高校教科書を超えて学問の楽しさを知りたい高校生、授業に着いていけなくなりそうな大学生、そして生化学・分子生物学そのものに興味がある一般人向け。ポイントを絞り、平易で親しみやすい文体でイラストを多く交えつつ書かれている。読んでいると様々なタンパク質がもたらす多様な機能が緊密に連携していく様に驚くとともに、非常に面白さを感じる。個人的には遺伝子よりも、発現したタンパク質の繰り広げる世界のほうにずっと面白さを感じる。

記述は生化学と分子生物学で明確に分けられている。生化学では生体のエネルギー単位となるATPを巡って、摂取した食物や光エネルギーから、タンパク質と酵素を主役としてどのようにATPへとエネルギーが変換されていくのか、また呼吸と同化・異化という形で、実際にATPをどう消費して生体のエネルギーとしているのかが描かれる。特に電子伝達系のATP生成がとても面白い(p.86-88)。電子伝達系では水素原子イオンがいったんミトコンドリアの膜間スペースに移され、それが出て行く時のエネルギーを用いてATP合成酵素が働きATPが生成される。あたかも水車やモータのように水素原子イオンの勢いでATP合成酵素の軸が回転することで生成は行われる。結果として解糖系やクエン酸回路の生成能力を大きく超える、ブドウ糖1分子あたり34ATPの生成能力を持つ。

また酵素を活性化させる補酵素の働きや、活性を抑制するアロステリック酵素の働きも面白い(p.40-45)。アロステリック酵素は負のフィードバックループをもたらす。ある物質が生成されるのと同時にアロステリック酵素も生成されれば、物質の生成量が増えるのにしたがって酵素の活性が抑えられるから、結局ある一定量までの生成の調整が可能になる仕組みだ。

分子生物学のパートではDNAからmRNAを経てタンパク質の合成までのプロセスと、免疫について書かれている。こちらのパートは正直なところもう少し良い本がある。生化学と分子生物学の違いについてはピンときていなかったのだが、著者の説明はすこし納得がいく。生化学的な発想ではまず何らかの物質が単離されて特定されて、それが生体の中でどう機能するかが考えられる。しかし著者によれば、ワトソンとクリックはそうした物質の単離を通じてDNAの構造を解明したのではなくて、含まれるタンパク質の割合や結合形式から、可能なDNAの構造を考察して二重螺旋構造に辿り着いた。これは「分子構造を基に”遺伝情報の伝達”という形のないものを考える、まったく新しいアプローチ」(p.132)だったと評している。

周囲の環境によって遺伝子の発現が制御される例はいくつかあって面白いが、本書には乳糖(ラクトース)の有無による乳糖分解酵素の発現制御、ラクトースオペロンの仕組みが書かれている(p.192f)。これは大腸菌の例で、リプレッサーというタンパク質が発現し、これは乳糖が環境にあればそれと結合するが、乳糖がないと発現乳糖分解酵素の遺伝子の上流にあるオペレータという領域に結合する。オペレータにリプレッサーが結合しているとRNAポリメラーゼがプロモーターに結合できないため、乳糖分解酵素の発現が起こらないということになる。かくして乳糖がないのに乳糖分解酵素を用意するという余計なタンパク質の発現を制御している。
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