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ゴイゴ・アジッチ『インパクトマッピング』

IMPACT MAPPING インパクトのあるソフトウェアを作るIMPACT MAPPING インパクトのあるソフトウェアを作る
(2013/12/19)
Gojko Adzic、ゴイコ・アジッチ 他

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ソフトウェア導入のゴールを明らかにし、ステークホルダー間で共有するための手法について。ゴール指向型で考えるための技法。ちなみに開発implimentationでなく導入deliveryと言うのもステークホルダーの価値について考えるため。ソフトウェア開発においてはゴールの共有が重要だ。何のために開発しているのかは見失われがち。ゴールを見失うと、声の大きなユーザに要件が引きずられたり、コストやスケジュールとのトレードオフでどこまで何を妥協すべきなのか分からなくなってしまう。本書はインパクトマッピングという名前の手法を用いて、どんなステークホルダーにどんな行動・インパクトを与えようとしているのかを明示しようとしている。つまり、「インパクトマッピングは、組織がソフトウェアを使ってインパクトをつくり出すための戦略プランニングの手法」(p.vii)だ。

ただ、この本は意図的に短く書かれていて、クイックリファレンスの役割を果たそうとしている(p.ix)。ちょっと説明が不足していると思える点もある。また、インパクトマッピングの特徴や効能が先に書かれていて、実際にインパクトマッピングがどういうものなのかは後半で書かれている。最初の方は読んでいても実態が分からず、やや焦燥感を覚える。

さてインパクトマッピングとは何なのか。それはマインドマップを使って書かれている(p.29-32)。中心にまずゴールを置く。その下の第一階層にステークホルダー(本書ではアクター)。第二階層に行動やインパクト、第三階層にソフトウェアの機能と成果物を書く。中心からWhy, Who, How, Whatと並ぶことになる。それぞれ、ソフトウェアをなぜ作るのかのゴール、そのゴールを(ソフトウェアを使って)誰が達成するのか、どういう行動でその人はそのゴールを達成するのか、何によって達成するのかとなる。例えば本書にある例では、ゴールを「ゲームのプレイヤー数100万人」とすると、ステークホルダーにプレイヤー、行動に「友達を招待する」、機能に「セミオートの招待システム」などとなる。この4つを組み合わせると、「プレイヤーがセミオートの招待システムを使って友達を招待することにより、プレイヤー数100万人を達成する」といったストーリー・仮説が作れることになる。

たぶんインパクトマッピングのポイントは、ソフトウェアの機能ではなくて、それを使ったステークホルダーの行動にフォーカスしたところなのだろう。利用者を明確にすると、機能をどうすべきか理解しやすい。また、Why, Who, How, Whatと構造化することによって、ゴールの達成に寄与しない項目を防ぐことができるだろう。マインドマップを使うため、ホワイトボードなどで顧客と開発側で一緒に議論しやすい。

ただ、各階層に書くものが決まっているのでマインドマップよりは、エクセルで表を作ったり、ロジックツリーのようにした方が見やすいだろう。マインドマップでは左右にマッピングが広がった時、各階層に何があるのかほとんど確認できない。各ノードが何階層目にあるのかもマップが大きくなるほど分かりにくい。マインドマップがビジュアルで分かりやすいとは、実務で大きく広げていったときにはちょっと共感できない(p.34)。インパクトマッピングのポイントは、マインドマップで書くことには依存しないだろう。

一番気になったのは、ゴールとして設定されているものの例がビジネスゴールとしてはちょっと低いと思われる点だ(p.5, 14f)。「プレイヤー数100万人」や「処理コストを10%削減する」といった例は、もう一段上の経営目標のレベルから考えるべきだろう。プレイヤー数100万人といってもなぜその目標なのかによって、トレードオフが発生した際に判断は変わる。例えば、コストを気にするよりもとりあえず拡散させ認知させる段階なのか、成熟期でROIを気にしつつもう一段上の成長を目指す段階なのか。それによってトレードオフの時に優先度を下げるべきインパクトは変わってくる。本書に書かれているゴールはシステム情報部長あたりが持つゴールのレベルだが、より上のレベルを見るべきだろう。

また、非機能要件や運用上のメインテナンスの容易さ、今後の拡張性、セキュリティといった話題はインパクトマッピングでは見えてこないだろう。こういった論点は機器調達やアーキテクチャの選択に関わる重要な論点だ。インパクトマッピングは、ステークホルダーが行う新しい行動にフォーカスしていて、非機能要件など新規ではなく「守り」の要件については弱いと思われる。

インパクトマッピングは戦略的プラニングの手法というよりは、ソフトウェアが達成すべきゴールの整理に使うフレームワークだと感じた。マーケティングを4Pで、業界構造をファイブ・フォーシズで、地域市場特性をPESTで整理するなどのように使えるだろう。
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