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入山章栄『世界の経営学者はいま何を考えているのか』

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア
(2012/11/13)
入山 章栄

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アメリカを中心とする経営学界のなかで現在どのようなトピックがあるのかについて書かれている。日本でよく話題になるような経営学のトピックと何が違っているのかに力点が置かれる。また経営学の話を踏まえて実際のビジネスにおいてどう考えればよいか、応用的な側面にも配慮している。学問の話ではあるが記述はかなり平易で分かりやすい。とても良い本だ。

現代の経営学の特徴として押さえておくべきだと著者が考えているのは、まず経営学の三つのディシプリン(流派)。これは経営学上の問題の源やアプローチとして経済学、認知心理学、社会学の三つがあるとしている。経営学者によってどの流派に属するかが分かれていて、現代の経営学のトピック一つについても包括的な教科書がないのはこの分派によると言う(p.46-54)。また統計データに基づいて展開する点も特徴に挙げられる。理論的な仮説を構築し、それを統計分析の結果で検証する。これと対比されるのがいくつかのケースを取り上げて論じる、ケーススタディのアプローチだろう。著者は、大量のデータを統計分析するアプローチを演繹的、ケーススタディを帰納的と呼んでいる(p.35f)が、これは誤りではないか。この二つのアプローチはどちらも帰納的だ。帰納のケース数の違いにすぎない。どちらが「より演繹的」かというものでもない。

中心となるのは、著者が現代の経営学のメインと考えるトピックの話が個々独立して続く。いくつか印象に残ったところを書いておく。
まず、組織学習におけるtransactive memoryの役割。これが個人の記憶と組織の記憶の違いをなしているもので、同じ組織内において誰が何を知っているかというメタ知識だ。社内の誰もが知識を等しく持っている必要はなくて、重要なのはこの件なら誰に聞けば良いというメタ的・インデックス的な知識。縦割り型の組織ではこうした知識が形成されにくく、それが組織学習がうまくいく組織かどうかの違いをなす(p.90-109)。

1998年のMyles Shaverの論文による衝撃。これは経営戦略が業績に与える効果を検証した結果、それまでの研究は間違っているかもれないと指摘した。例を取ると、海外子会社の業績(a)を説明するのに独自資本による海外進出(b)を持ちだしたとする。回帰分析の結果、(a)と(b)には有意な相関があることがわかり、したがって独自資本による海外進出という戦略を取ったほうが、海外子会社の業績は良いという結論になったとする。だが、これは実は企業の優れた技術力(c)という別の要因によるものかもしれない。つまり、優れた技術力があるので、技術流出を恐れて独自資本による進出を選び、そして海外子会社の業績もよいのかもしれない。当初、(b)→(a)のラインを考えていたが、これは(c)が(a)と(b)の両方に良い影響を与えた結果で見えているものかもしれない。著者はこれを計量経済学における内生性の問題としているが、この説明だけ見ると相関関係と因果関係の取り違えに見える(p.109-114)。

Hofstedeのいわゆるホフステッド指数(およびKogutとSinghによるGLOBE指数)。IBMという一つの企業の従業員に限定していることについての評価は書かれていないのが不思議。その指数からの示唆として、集団主義傾向の強い日本人のほうが、異質な文化との協力が心理的に困難になる可能性が指摘されている(p.198-202)。

Resource Based Viewを巡る科学哲学的な議論は、経営学の理論的性質の話に至っているもので面白い(p.286-306)。紹介されているところを読む限り、話がけっこうねじれているように見える。リソースがvaluableでrareであることと、valuableでrareな戦略を遂行できる能力はその二つの真理条件が異なるなら問題はないように見える。例えば「白い本は白い棚にある」という命題には二つの「白い」という形容詞が現れるが、本が白いことと棚が白いことは別の真理条件を持っていて、それらは独立に検証できる。単純に同じ言葉が使われるからトートロジーだということにはならないだろう。これはデータが取れるかどうかの話とも別で、純粋に理論的な話だ。

最後には現代の経営学の学問的性質とその問題点が書かれている。実証データが少なくて、どうしても理論偏重になってしまうこと。新規で面白い理論を生み出すことが高評価になっている傾向(p.308-317)。しかしこれは同じように実証データを取ることが理論の構築に比べて難しい、宇宙物理学や進化生物学といった分野と比較したほうがよいかもしれない。また、先の統計分析かケーススタディかという二分法に関連して、統計的平均から外れるものこそ経営学的に重要なのではないかという問題提起は重い(p.318-325)。それはまず、それが平均から外れていることを指摘することも重要だという応答が書かれる。また、ベイズ統計と複雑性のアプローチが触れられている(p.334-340)。
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