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塩野七生『ローマ亡き後の地中海世界1』

ローマ亡き後の地中海世界1: 海賊、そして海軍 (新潮文庫)ローマ亡き後の地中海世界1: 海賊、そして海軍 (新潮文庫)
(2014/07/28)
塩野 七生

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イタリア中世史。さすがに記述は明確でテンポが良く読みやすい。歴史的叙述はさらりと流しながら、その時代にそこで生きた人たちの思いを描こうとしている。第一巻は西ローマ帝国が滅亡してから、シラクサがイスラム側に落ちてシチリア島がイスラム支配下に入る(878年)までを描く。北アフリカまで拡がったイスラム教は、アラビア半島から来た原イスラム教徒と、北アフリカの現地で改修した新イスラム教徒の内部対立を含みながらも、北アフリカから地中海を超えてイタリアを目指す。

こうしたイスラム勢力(サラセン)は海賊という形を取った。しかも海賊を生業とした。ローマ時代の北アフリカは豊かな土地だった。農業生産は地中海の豊かな土地であるシチリアに並ぶものがあった。だがローマ衰退後、その陰は見るも無くなる。海賊を生業としたのも無理からぬことだ(p.225f)。かくしてサラセンは海賊として、シチリア島や南イタリアに襲いかかり、物資、金銭、そして奴隷として人を奪い取っていく。海賊行為によって生活を成り立たせているのだから、繰り返し行われる。一つの街が海賊行為によって荒廃すれば、別の街が襲われる。イタリアの人々は、いつ来るとも知らぬサラセンの海賊に怯える。海賊に襲われ、奴隷化されるイタリア半島とシチリア島の住民にとっては、この時代は暗黒の中世以外の何ものでもない(p.64f)。

イスラムの急激な広がりは、ビザンチン帝国の複雑で重い税金と汚職による不満と関係している(p.28f)。とはいえ、イタリア側も手を拱いているわけにはいかない。著者は、800年の神聖ローマ帝国の成立をこのサラセンの海賊への対抗策から見ている。本来、シチリア島および南イタリアはコンスタンティノープルのローマ帝国(東ローマ帝国)の領有である。ところが、荒らしまわるサラセンの海賊に対して、コンスタンティノープルからはまったく軍事的援助がない。イタリア側の自衛手段としての神聖ローマ帝国の成立は、ローマ教皇庁がコンスタンティノープルから離反することを意味する(p.67-72)。ところが、神聖ローマ帝国を成立させた立役者のシャルル・マーニュとレオ3世が亡くなると、ヨーロッパが結集してイスラム勢力に立ち向かう気勢は一気に薄れる。
平和とは、求め祈っていただけでは実現しない。人間性にとってはまことに残念なことだが、誰かがはっきりと、乱そうなものならタダでは置かない、と言明し、言っただけでなく実行して初めて現実化するのである。ゆえに平和の確立は、軍事ではなく、政治意志なのであった。(p.79)


結局、イタリア各地がサラセンの海賊に襲われても、対抗する軍事力がイタリアにはない。830年、イスラム勢力はついにローマに迫るが、それでもキリスト教側の救援軍は来ない(p.110)。この時は城壁外の聖パオロ大聖堂や聖ピエトロ大聖堂は略奪にあうが、城壁内は守り切った。ローマのすぐ近郊のチヴィタヴェッキアを占領し基地を築いたサラセンは、846年、再びローマに迫る。この時ばかりは義勇兵が各地から集まってくる(p.148-153)。しかしこの違いは何なのか、あまり記載はない。

かくして9世紀後半のイタリア半島はいつイスラム化してもおかしくない状況だった(p.186)。特に北アフリカに最も近い、シチリア島は常にサラセンの脅威にさらされ、877-878年のシラクサ攻防戦で陥落、全土がイスラム勢力に落ちる。ちなみにこの時も、西方のキリスト教者はシラクサの苦境をみな知っていたが、誰も助けなかった(p.202)。シチリア島は1072年にノルマン人が支配するまで、イスラム勢力下に置かれる。このイスラム勢力下のシチリア島が、「イスラムの寛容」のもと、それなりに平和を保ったことも事実である。それが証拠に、シラクサが籠城戦を続けていても、シチリア島各地のキリスト教徒たちは蜂起も参集もしなかった。

キリスト教側が一矢報いたのが916年。教皇ヨハネス10世は自ら軍の先頭に立ち、イスラム勢力からガリリアーノを奪回。ついでチヴィタヴェッキアも取り返し、ティレニア海からサラセンの海賊を追い出した。しかしこれはイスラム勢力側において、原イスラム教徒と新イスラム教徒の対立が深くなったことが助けとなっているもので、海賊の勢力が一気に弱まったわけではなかった(p.216-220)。この後もイタリアはサラセンの海賊に脅かされる。その海賊への備えが海洋国家を作っていくのだ(p.248f)。
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