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雄山真弓『心の免疫力を高める「ゆらぎ」の心理学』

心の免疫力を高める「ゆらぎ」の心理学(祥伝社新書294)
人間の血流のゆらぎから精神状態を推測する試みについて。主に指先の毛細血管を流れるヘモグロビンの増減(指尖脈波)を測る。心拍に合わせて変動するが、その変動は規則的ではなくカオス的挙動を示している。しかし、ターケンス埋め込み法という技法で空間にプロットすれば規則的なアトラクターが得られる(p.26-30)。そのいみで、指尖脈波はランダムではなくカオス(規則が無いのではなくて、非線形で複雑なだけ)。

ついで、こうした変動・ゆらぎの幅を表す尺度としてリアプノフ指数を取り上げる。これは先にプロットしたアトラクターの軌道において、「近接した2点から出発した二つの軌道がどのくらい離れていくかを測る尺度」(p.35)。アトラクター内の各点でリアプノフ指数を算出したなかの最大値を最大リアプノフ指数とする。これをメインの指標として次の結果が得られる(他には自律神経バランスの値を用いるとされているが、自律神経バランスについては何も解説は無い)。
・精神的に健康な人の最大リアプノフ指数は、ある範囲で常にゆらいでいます。そして健康な場合は自然にこのゆらぎを行えます。
・うつ廟や認知病の人は最大リアプノフ指数の低い状態が長く続きます。
・最大リアプノフ指数の高い状態が継続する場合は緊張やストレスが高く、精神的にバランスを崩しやすい状態にあります。(p.162)


ポイントは健康な人では最大リアプノフ指数が高く、うつ病や認知症など精神活動のレベルが低い人では低いこと。心拍は交感神経と副交感神経のバランスによって決まる。最大リアプノフ指数はただ単に高ければいいというものではない。著者は、多くの活動形態において最大リアプノフ指数がどうなっているか、何がその指数の増減に作用するかを探っている。健康な人、うつ病、認知症から始まり、トラック運転者、大手企業の社員、妊婦、幼児になど。指数の増加に寄与するものとしては、コミュニケーションや音楽(p.65-82)、笑い、運動、動物、好きなこと(p.96-110)などが挙げられている。もちろん、これらには個体差がある。犬が嫌いな人に犬による動物療法は効果をなさない。

幼児について言えば、3歳児の最大リアプノフ指数が他の年齢の幼児に比べて低いことが統計的に有意だそうだ。これは3歳児が、環境からの原始的な受け入れでなく、それを取捨選択している時期であるからではないかと仮説を述べている(p.150-152)。つまり外界に積極的に拓いて刺激を受け入れるより、内省的になるフェーズと言える。これが3歳児までで人間の基礎能力が形成されるという3歳児の神話と関連するかもしれない。

また同じストレスでも内部集中(暗算など)と外部適応(自動車運転、モニター監視など)では最大リアプノフ指数に対する反応が異なる。前者では下がり、後者では上がる。外部適応の作業は最大リアプノフ指数がある程度高い状態でなければならない。低い状態の人がやるとミスが多くなる(p.128-131)。指尖脈波を事前に検出してその人の状態を把握すれば、ミスが重大な結果につながる仕事から外すなどの対策が取れるかもしれない。指尖脈波をストレスやメンタルヘルスのチェックに活かせるかもしれない。

著者はすでに指尖脈波を測る指先に装着するUSBデバイスや、そのデータを解析するLyspectというソフトウェアを開発している。まだ数量も少ないためにデバイスには価格の問題があるようだ。だが、いまではスマートフォンで測るという手段もある。シリコンバレーのazumioという会社が出しているStress checkというアプリが(測定原理が同じかどうかは分からないが)それにあたる。現在ならもう少しやれることがあるのかもしれない。
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