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池田純一『〈未来〉のつくり方』

〈未来〉のつくり方 シリコンバレーの航海する精神 (講談社現代新書)
シリコンバレーがイノベーションを生み出し続けるその文化的、思想的背景を探った本。シリコンバレーの巨大企業やスタートアップたちが目指そうとする世界、そのビジョンはややもすると滑稽なほど壮大である。彼らは、なぜそうしたビジョンを抱き、それを本気で実現しようとしているのか。シリコンバレーを中心とするアメリカのIT業界の流れを、多くの情報とともに丹念に辿りつつ、シリコンバレー独自の精神・思考様式を明らかにしようとする一冊。

話は前史としてムーアの法則とペイパルマフィアから始まる。ムーアの法則は法則というよりも、ほぼ「目標」としてシリコンバレーを牽引した(p.13)。シリコンバレーの投資環境を拓き、その文化の基礎を築いたペイパルマフィアは、中心人物がテクノロジーや自然科学分野ではなく、政治や思想の領域を出自としていたことが語られる(p.75)。彼らは、インターネットによる新しい社会の創造を本気で目指し、牽引した。シリコンバレーの特徴の一つである、未来語りの背景はこうしたところにある。

シリコンバレーといえばアメリカ西海岸のIT業界を代表するように見える。しかし例えばアマゾンやマイクロソフトはシアトルに位置する。著者は、カウンターカルチャーを中心とするシリコンバレー(典型的にアップル)と、本流の啓蒙主義的立場を取るアマゾンを対比する(p.120-124)。とはいえ、シリコンバレーのなかでもツイッターのような土着のヒッピー文化の企業と、フェイスブックやグーグルのような「育ちの良い」企業のコントラストはあまり明らかではない。それはサンフランシスコとパロアルトの違いにもなるだろう。

また、ソーシャルを重視する時代における、企業形態からの模索も扱われる。社会を変革していこうというシリコンバレーの精神は、いきおい会社の姿自体を変える。私的利潤profitから公的利益benefitを生み出す会社への変貌(p.170-176)。

最後には、インターネットが可能にする分散社会が、産業革命によって労働力が集積された社会の前に戻るのではないかという話が扱われる(p.200-221, 280f)。これは文明史的に面白い話だ。産業革命による近代化からおよそ百年経ち、我々は分散社会という第二の近代化に出会っているのかもしれない。

単にテクノロジーの話ではなく、社会思想や文化論への関心がないと読みにくい本。この著者のものはもう少し読んでみよう。
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