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圏論の歩き方委員会『圏論の歩き方』

圏論の歩き方
圏論についての本。この本は圏論の入門書ではないし、圏論の研究本でもない。純粋な圏論研究者以外の人たちが集まり、圏論の使われ方について語ったもの。圏論はそれ自体だと抽象的で、何をやっているのか分からなかったりする。もともと(出自は代数幾何学が多いが)何らかの数学的構造があって、それを抽象化した結果として圏論ができている。そして抽象化が一度なされれば、似たような構造が他の分野にも発見されることになる。こうした、圏論的知識が背景に持っている暗黙知を語ることによって、圏論への理解を深めようとしている。「この本では、あくまでインフォーマルに徹することで、圏論の「暗黙知」をできるだけ分かりやすく伝えたいと思っている」(p.13)。

というわけで登場するのは圏論が使われる様々な分野の研究者だ。それぞれの人がそれぞれの分野において、圏論がいかに使われ、圏論で記述することによって新たな知見が得られるかを書いている。分野は量子力学、プログラム意味論、論理学、数学教育、位相幾何学、表現論、システム生物学といったところ。個々の章のレベルは様々。圏論の初歩から書いている説もあれば、かなり難しいものもある。難しい章についてはあえてそのままにされている。私自身は物理学に馴染みが薄いので、特にゲルファント変換に関するところがよく分からなかった。

本書を通じて様々な分野で出てくる圏論の重要な概念は、双対性(随伴性を含む)、モナド、米田の補題に代表される表現。圏論のインフォーマルな説明としては、モナドとは気持ちは同じなのに式としては異なる構成を、事実同じものとして記述する仕組みという記述(p.95, 106f)や、米田の補題は作用を受けることと作用を受けるものの自然な一対一対応という記述(p.255f)がある。「圏を考えることで比較の手段が与えられ一見異なるものが結びつく、という現象は圏論の醍醐味の一つに数えられる」(p.228)という事例にあふれている。

一番面白かったのは丸山氏のcategorical logicを巡る二章。随伴としての論理定項というWilliam Lawvereについての解説を読んだのはほぼ初めてで、インパクトは強く感じながらもいままでよく分からなかった話が少し明らかになった。また、ウカシェヴィッツ論理の「かつ」が随伴として特徴づけられないという話も初めて聞いた(p.169-171)。Lawvereのhyperdoctrineを通じて、証明論的意味論とモデル論的意味論の統一解釈が可能になるという話(p.183-185)も面白い。「圏論的論理において双対性は、もはや二項対立の圏論的表現ではなく、多様な述語論理・集合論の圏論的様態」(p.190)だそうだ。この人は哲学の人間でもあって、新カント派や京都学派にも造詣が深いようだ。

とても自由な雰囲気で書かれている本で、読んでいて面白い。研究者が自分の熱意と勢いをメインに語る本は好きだ。希望を書いておけば、圏論の歴史的な話と集合論との関係の話が書いてあると、なおよかった。また、圏論そのものはごく基本的な概念しか導入されていないので、様々な圏(何度か話に出てくる豊穣圏とか導来圏とか、層、トポスといったもの)についても述べられているよい。
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