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サイモン・シン『暗号解読』

暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで
古代から現代までの暗号の歴史を描いた有名な本。技術的背景に支えられた説明の上手さ。豊富な実例とあまり知られていない事実の発掘。レベルが高い記述にもかかわらず平易に読める。暗号の歴史展開に興味がある人の必読書だろう。暗号のアルゴリズム自体は、もちろん話の展開上解説されるものの、そんなに難しい解説はしていない。

単純な文字の置き換え(cipher)のような昔の暗号から始まる。暗号が生み出した歴史上のインパクトをたどりながら話題は続いている。暗号の歴史は基本的に、暗号作成者と暗号解読者の戦いである。新しい暗号が発明され、それが解読されるというシーソーゲームで進行していく。なかにはビール暗号という金銀財宝のありかを記した暗号文がある。これは19世紀前半にロバート・モリスというホテルのオーナーが残した財宝の暗号文。幾多の人が解読に挑むもいまだに成功していないそうだ(p.123-145)。小説のような話である。

歴史的にはいくつか画期的な暗号アルゴリズムがある。長く有効だった暗号として取り上げられているのが、16世紀のブレーズ・ド・ヴィジュネルが完成させたヴィジュネル暗号だ。一つの文章に対して複数の換字アルファベットを用いるアルゴリズムである。これが19世紀イギリスのチャールズ・バベッジによって基本的には頻度分析によって解読されるまで、強力な暗号だった。ヴィジュネル暗号の解読以降は、解読者が優位に立つ。しかし第一次世界大戦で画期的な暗号が発明される。それがワンタイムパッド暗号で、メッセージの暗号にランダムな鍵を用いる方法。ただし、純粋にランダムな文字列を生み出すことの困難さと、鍵をメッセージの受け手にすべて配布することの困難さから、あまり実用的ではなかったとの評価(p.163-173)。

ここから先は現代的な話題に入っていく。本書の中間部で大きな割合を占めるのは、かのエニグマ暗号機について。エニグマ暗号機は1918年にドイツの発明家アルトゥール・シェルビウスが作ったもので、第一次世界大戦後のドイツ軍で広範に使用されたのはよく知られている通り。その解読に挑んだのは主にイギリス軍、ことに海軍省暗号局、通称「40号室」だった。しかし本書ではほとんど知られていない、エニグマ解読におけるポーランド、特にマリアン・レイェフスキの果たした役割が強調されている(p.206-222)。「40号室」を引き継いだイギリス政府暗号解読班、「ブレッチレー・パーク」ではアラン・チューリングを始めとした天才たちがエニグマの解読に挑んだ。その解読の様はかなり詳細に書かれている。

エニグマ解読の後は、第二次世界大戦におけるアメリカ軍のナヴァホ語の活用が取り上げられている。ちなみに日本軍も鹿児島弁で似たような試みをしているが、そのことは書かれていない。その後、突然に線文字Bの解読の話を挟んで、現代の暗号でもっとも重要な概念、公開鍵の解説へ移る。そこには、エニグマ暗号以降のローレンツ暗号を解読しようとした計算機「コロッサス」(1943年、1500個の真空管を用いた計算機)こそ、プログラム可能なコンピューターの母であって、ENIAC(1945年、18000個の真空管)ではないという指摘もある(p.324-326)。公開鍵暗号方式の話でも、リヴェスト、シャミア、アドルマンのRSAが1977年に公開鍵暗号を発表するよりも前に、イギリス政府通信本部でジェイムズ・エリスとクリフォード・コックスが生み出していたという話がある(p.372-388)。

本書にはこうした秘められていた事実の発掘がある。それは現代の暗号が基本的に軍事秘密であり、歴史的経緯も後年にならないと明らかにされないからだ。本書に引用されているジェイムズ・エリスの言葉は本質を突いている。
暗号学はきわめて異色の科学である。プロの科学者の大半は、誰よりも先に仕事を発表しようとする。なぜなら彼らの仕事は、広められてはじめて真価を発揮するからである。それに対して暗号の研究は、情報が漏れる可能性を最小限にとどめてこそ、最大限にその価値を発揮する。そのためプロの暗号研究者は、仕事の成果が外部に漏れないように秘密を守り、閉ざされた世界の中で仕事をしつつ、仕事の質を高めるための交流を行うことになる。暗号に関する秘密を公開することが許されるのは、秘密にしてもこれ以上利益はないことが明らかになった後に、ただ歴史的正確さを期すためでしかないのである。(p.388)


最後は、公開鍵方式の根拠である素因数分解が量子コンピューターにより短時間で破られるかもしれないと危惧を抱きつつ、最強の暗号としての量子暗号に触れる。量子暗号こそ、原理的に解読が不能な暗号だ。「量子暗号は暗号作成者と暗号解読者の戦いにピリオドを打ち、暗号作成者が勝者として立ち現れるだろう」(p.462)。量子コンピューターの完成と量子暗号の完成のどちらが先か。それが今後の暗号の未来を決める。

なお、こんなに大部で歴史的事項や専門用語が多用される本なのにも関わらず、索引がない。これはまったく論外だと思う。
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