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リンダ・グラットン『ワーク・シフト』

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
非常に良い本。これからの世界を変化させるどのような要因があるか。それによって世界はどのように変わるか。その時、我々の職業生活がどのように変わるか。必要とされるようになる仕事とは何か。そのような仕事を担っていくために必要な能力は何か。そうした能力をつけていくためにはどうしたらよいか。「未来を理解し、未来に押しつぶされない職業生活を切り開く手助けをするために」(p.26)書かれた本だ。この類の本は多くあるのだが、本書はしっかりした記述。著者はLSEの教授で、学問的な背景もありつつ、多くの現場を見てきてもいる。ジャーナリストが書く薄っぺらい未来本とはまったく違う。

未来ということで照準は2025年に定められている。2025年の未来を形作る要因は5つとされている。テクノロジー(特に情報通信技術)の進化、グローバル化の進展、人口構成の変化と長寿化、社会の変化(家族形態の変化、女性の社会進出、ワークライフバランスの重視、余暇時間の増加など)、エネルギー・環境問題の深刻化の5つ。これら5つの要因の中で、職業生活を特に変えるのはエネルギー問題。仕事のやり方に革新的変化が起こるのは、エネルギーの新たな発見や既存の活用方法が大きく変わるときだ(p.16f)。

もちろん5つの要因は功罪どちらもあり、輝かしい未来も暗い未来ももたらす。特に言えば、5つの要因のうち、社会の変化は好ましい結果をもたらす可能性がもっとも高い。この要因は一人一人の行動と選択で変える余地が大きいためだ。他の要因は一人一人ではコントロールが難しく、その変化に追従していくしかない(p.54)。著者はまず、5つの要因によりもたらされる、暗い未来を3つのシーンで描く。情報通信技術で世界中がリンクした結果、昼夜問わず世界各地との仕事に分刻みで追われる仕事、ネット上で仕事の依頼も納品も済んで顔を合わせない孤独な仕事、そして新興国や新興企業に仕事を奪われる新たな貧困層。総じて、2025年の未来は人々の孤独が深まりやすい状況が出現する(p.110)。人びとがつながりやすくなっているにも関わらず(というより、だからこそ)、人びとの孤独が深まる。地域社会や家族といった伝統的なつながりは希薄化し、ネット上で済むつながりが増える。どんなにAIを始めとするテクノロジーが発展しても、孤独を味わう人の増加は避けられない(p.161f)。

こうした未来において、明るい未来はどう作られるのか。著者が挙げているパターンは三つ。世界中の様々な人と連携して仕事をやり遂げるco-creationの未来、仕事一筋ではなく貧困問題や環境問題に人びとが積極的に関わる価値を見出す未来、プラットフォームの上でミニ起業家たちが活躍する未来。これらは1990年の世界と対比されている。1990年はすぐ昔と思いつつ、インターネットもなかった時代。いま読んでも遠い過去のように聞こえる。

これら明るい未来と暗い未来は確かに、もういくつも事例がある。すでに始まっている未来だ。何度か著者が引用する言葉だが、未来は全員に同時にやってくるのではなく、それぞれの人に濃淡を持ってやってくるのだ。未来の社会でする仕事を選ぶことについて、著者は3つの問いを考えることが重要だと説く(p.227)。大企業の中心で働きたいか、自分で起業するか。何歳まで働きたいのか。どこで暮らしたいのか。自分で起業するのであれば、自らの専門的知識と、コラボレーションできる人びととのネットワークが必要だ。長寿化する社会で高齢まで働くならば、壮年期に限界まで働くのではなくバランスを取っていかなければならない。暮らす場所を選べれば、その都度、自分の仕事にとって最適な地域・都市を選んでいける。

以上のような未来に向かって、著者は働き方の三つのシフトが必要だと説く。ゼネラリストから連続スペシャリストへ、孤独な競争から協力して起こすイノベーションへ、大量消費から情熱を傾けられる経験へ。このシフトを行うには、それぞれに対する資本を備えてなければならない。知的資本、人間関係資本、そして情緒的資本がそれぞれ対応する。情緒的資本の概念はちょっとおもしろい。これは「自分自身について理解し、自分のおこなう選択について深く考える能力、そしてそれに加えて、勇気ある行動を取るために欠かせない強靭な精神をはぐくむ能力」(p.234)だ。何を重視するか自己決定でき、選択できる能力。シフトを実践することへの不安に対する強靱な精神をはくぐむ必要があるのだ(p.370-372)。

第一のシフトに対応するには、専門能力を高めることが必要。特に価値の高い専門能力として、生命科学健康関連、再生可能エネルギー関連、創造性イノベーション関連、コーチングケア関連が挙げられる(p.248-262)。ゼネラリストの時代は終わった。ただし専門能力といっても時代の変化が早いため、その都度新たな専門能力を構築する必要がある。連続的スペシャリストだ。そして能力を備えるだけではなく、自分がそうした能力を持っていることをセルフマーケティングしていく必要もある(p.236-241)。会社に属しない仕事の仕方が普及すると、個々人の専門能力が見えにくくなってしまう。セルフマーケティングの三つの方法が書かれている(p.283-299)。自分が行った仕事について、自分がやったのだと分かるような刻印・署名を残すこと。同業者のコミュニティを作ったり属したりすること。そして、一つの仕事だけにずっと打ち込むのではなく、一つの仕事に打ち込み、次に仕事をせず学習や休息の期間を取り、次の仕事に打ち込み、といったカリヨン(組み鐘)型のキャリアを描くこと。

人間関係資本の作り方は、本書の大きなポイントだろう。本書は、三つの人間関係が必要だと主張している。ポッセ、ビッグアイデア・クラウド、自己再生のコミュニティだ。ポッセとは、比較的少人数(数名)の深く信頼できる人々からなる。困ったことや聞きたいことがあるときにすぐに、いつでも力になる仲間たち。そのためには関心が近く、同レベルのスピードと技量が必要だ。ただし、ポッセは同じような人間の集まりであるため、一方向にしか進めないという欠点がある(p.303-306)。ビッグアイデア・クラウドは自分の友人の集まりの外縁部(知人の知人)にある数百名。アイデアを募集したり収集したりできるコミュニティ。IT系を中心にして、こうしたクラウドはいま多く構築されている。だが著者は自分にとってのビッグアイデア・クラウドは構築が難しいと説く。必要なのは、その場の雰囲気に合わせられるカメレオン人間だと(p.307-309, 324-326)。自己再生のコミュニティもユニークな発想。これは仕事以外の、家族や地域社会、趣味の知人からなるもので、生活の質を高めることに繋がる。昔は家族や地域で自己再生コミュニティが作れたが、未来では意識的に探さなければならないのだ(p.309f, 327-329)。

最後に子どもたちへの手紙、企業経営者への手紙、政治家への手紙の三つが掲げられている。この本はいま働いている人というよりも、これから職業生活に入ろうとする子どもたち、そして仕事の仕方が変化する中で働く場や環境を提供する企業経営者や政治家にこそ有効な本だ。特にやはり、子どもたちこそ読むべき本だろう。
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