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鈴木淳『関東大震災』


関東大震災について。特に震災発生後、罹災者たちがどう行動し、それを救援する行政、医療機関、地域の人々がどう行動したが綿密な資料渉猟によって描かれる。歴史研究者らしく細部の数字にまで気を抜かない姿勢が見える。それゆえ、よくあることだが、読み手としては細かい記述にポイントを見失いがちにもなる。ただ、著者が目しているのは単に歴史的事実の確定ではない。そこから来るべき震災に向けてどのような教訓を引き出していくかにある。

本書を読んでいると、在郷軍人会と青年団が多く取り上げられているのが印象に残る。これらは日露戦争後に組織されたもので、東京での火災や水害で各種の救援活動に役割を果たした。そのこともあって、災害時での行政からの期待は大きかった(p.26-32)。ただし、関東大震災では組織としてはあまり有効に機能していない。自警団として活動はあるが、例えば延焼防止に向けた活動では在郷軍人や青年団という形ではなく、同じ地域の住民として団体の枠なく動いた(p.96-98)。

関東大震災では行政の活動よりも市民の自主的な活動が目立つ。これは水害を中心に防災が考えられていたので、前兆のない地震という災害に対する備えはあまりなかったこともある。水害では雨が振り続いて徐々に水位が上がっていくなど、前兆があり、ある程度の予測ができる。そして当時の東京は水害が多かった。ところが地震の場合、前兆はなにもない(p.48f)。さらに関東大震災が土曜日だったことも大きい。東京府職員も警視庁職員も、そのかなりの部分は地震発生にも関わらず土曜の半ドンで帰宅している(p.35-39)。自主的に再出勤したものはいるが、こうした有事の際の対応体制や指揮系統が済美されていなかった。

前半は地震発生後の火災の広がりを地域住民や消防がいかに防ごうとしたかが書かれている。特に四方を火に次々を囲まれつつも町を守り抜いた神田和泉町の話は面白い。また、前田利為、東郷平八郎など著名人が延焼阻止に立ち向かったことが人々を鼓舞したことも指摘される(p.88-091)。何よりも、著者はもともと明治期の技術誌研究が出自であり、ここは延焼防止に使われた設備や道具に詳しい。類書にない特徴だろう。消防には消防車もあり出動していたが、上水道が物理的破壊や停電で壊滅したため、苦労している(p.60-63)。また活動するうちにガソリンが足りなくなる。各地にあったポンプが消火用に使われたが、これはガソリンポンプだった。同じようにガソリンの不足に悩まされる。著者は、ガソリンポンプの普及によって、腕用ポンプや蒸気ポンプなど旧式の機材を破棄してしまった問題点を指摘する。技術の高度化の中で大規模災害への量的対応力をいかに確保するかが課題である。当時の東京では各地に井戸があり、水道が使えなくても消火用水が確保できた。現在の東京では状況はどうなるだろうか(p.77f)。1997年の被害予想だが、東京都の想定では焼失面積は関東大震災の2.6倍もあるのだ(p.103f)。

関東大震災といえば、38,015人(周辺を合わせると44,030人)が死亡した本所被服廠跡の悲劇と、「不逞鮮人」と呼ばれた朝鮮人虐殺であろう。この二つは、情報の錯綜という観点から扱われている。被服廠跡の話は医療体制の観点からも見られる。例えば、被服廠跡の多数の負傷者は情報伝達の混乱により、4日になってようやくその深刻さが共有されている。各組織間の情報連携がうまくいっていれば、被服廠跡の救援はもっと早まったはずである(p.162-164)。

各地の人々の自主的な救援活動、いまでいうボランティア活動に焦点を当てているのも本書の特徴の一つ。例えば、群馬と栃木からはいち早く救援隊・救援物資が寄せられている。ただし、受け入れ側の政機関では仕事の割り振りがうまくできずに、持て余すことになる(p.206-208)。こうした点は現在でも、救援物資は集まるが被災者までのラストワンマイルで止まってしまうのと同じだ。さらには、東京帝国大学の学生の活動が後年のボランティアにつながる活動となったことも描かれる(p.210-213)。

だが、こうしたボランティア的な活動はその多くが時間を経て自警団活動に収斂していった。それゆえ、後の行政からの評価は低い。評価されたのは軍隊や行政から統制を受けた活動である(p.229)。また軍隊も関東大震災での対応を経て、その信頼を多く集めるようになった。これは戦時中の体制への伏線となっていったのだ。災害派遣での貢献で国民の信頼を集めている、現在の自衛隊に一脈相通じるところがある。
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