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ウィリアム・クラーク『免疫の反逆』

免疫の反逆―進化した生体防御の危機免疫の反逆―進化した生体防御の危機
(1997/02)
ウィリアム・R. クラーク

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これはとても面白い。主にヒトの免疫の仕組みについての本。免疫に関わる病気を中心に話が進む。古代ローマ、トゥキディデスの天然痘の記述や、パスツールとコッホの確執、症例をもたらした様々な患者。歴史やエピソードが豊富で、読んでいて飽きない。

しかも観点が面白い。例えば、花粉症を始めアレルギー症状を引き起こすIgE抗体の進化的意義が何なのか、著者は率直に疑問を述べている。IgE抗体を欠損していることによる免疫的異常は何も見つからない、という。さらに生体は、IgE抗体の産出を抑えるメカニズムすらあるというのだ。なぜIgE抗体が存在するのだろう?

また、脳と免疫系のやりとりの話も面白い。脳と免疫系は、ともに自己と記憶を扱う器官である(だから免疫は最高に面白い)。これは単に精神状態が免疫力に関与するというだけではない。免疫系は、主に視床下部が産出する化学物質を産出できる。逆に脳も、主に免疫系が産出する化学物質を産出できる。こうして脳と免疫系はお互いにお互いの化学物質をやりとりできる。

最後の抗体の多様性の話は最高だ。B細胞は、いまだ生体が出会ったはずのない、人工的に合成されたタンパク質に対しても抗体を産出できる。なぜなのか。これは、B細胞が遺伝子の様々な断片を保持しており、それを様々に自由に組み合わせて抗体を産出するからだという。生体は、単に一つのDNAをコピーし続けるだけではない。B細胞では実に自由な遺伝子の合成が行われているのだ。抗体を作る遺伝子は遺伝しない。それは生体内で合成され作り出される。これは極めて驚くべきことではないか。

とてもとても面白く驚きに満ちた本だ。ただ、臓器移植の倫理の話はこの本からすれば少し余計ではないかと感じた。免疫系は、脳と並んで自己と記憶を司る器官である。脊椎動物で初めてこのような高度な免疫系が獲得されたことを考えれば、脳の進化との何らかの関連もあるのかもしれない。興味は尽きない。


amazonに読書記掲載。
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あまり知られていないようだが、とてもよい本だ。ヒトを始めとする生体の免疫系についての読み物。免疫のシステムを、免疫に関わる病気との関連で説明していく。特徴は、歴史がよく踏まえられていること。免疫学が成立してからの研究史もそうだが、それ以前の伝染病についての史実に詳しい。例えば、本書はトゥキディデス『ペロポネソス戦史』での天然痘の記述から始まる。他にもエピソードが多く、読んでいて面白い。

特に興味を引かれた点が三つあった。まず、様々なアレルギーの原因となるIgE抗体について。著者は「そもそもIgEがどうして存在するのかが分からない」(p.143)と率直に述べる。IgE抗体に何らかの欠陥があっても、免疫学的な問題は起こらない。そればかりか、生体はIgE抗体の産出を阻止するような制御機構をもっているようだ。不思議である。

ついで脳と免疫系の相互関係について。この論点に触れているのは本書の特徴の一つだろう。脳と免疫系は、ともに自己と記憶を司る器官なのだ。これらには、お互いにやりとりができる以上のことがある。免疫系は、主に視床下部が産出する神経ホルモンACTHを産出できる。逆に脳は、主に免疫系が産出するインターロイキンIL-4, IL-6を産出できる。著者が言うよう、免疫系は五感に並んで外界を認識する「第六感」(p.324)かもしれない。そして脳と免疫系は、外界の認識についての深い関係の中で進化してきたのかも知れない。

最後に、抗体の多様性について。免疫系は出会ったことのない抗原に対しても、抗体を産出できる。人工的に作られたタンパク質に対しても。このような抗体の多様性はどこから来るのか?抗体を産出する遺伝子をB細胞があらかじめ持っているのではない。抗体を生み出す遺伝子は遺伝しない。いくつかの遺伝子断片から遺伝子を合成し、様々な抗体が作られるのである。生体の中で遺伝子組み換えを行っているのだ。とても驚いた。

本書は免疫に関わる病気を主体として、免疫を説明する。そのため、免疫系のメカニズムそのものの説明は多少、薄いと感じた。免疫系の「自己」を決めるHLAの話は、だいぶ後で出てくる。キラーT細胞にアポトーシスの説明は薄い。細胞同士のやりとり、インターロイキンやサイトカインの話も薄い。また、臓器移植の章では、臓器移植にまつわる社会的、倫理的問題に多くが割かれている。これは本書のテーマとしてはやや逸脱ではないだろうか。

本書はこの上なく不思議な免疫のシステムについて、読み手の興味をかき立てる。いまだ不明な事柄についての著者の率直な疑問が、さらに謎へと誘う。この分野に興味のある人に勧められる良書だ。
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