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足立紀子『ゲルギエフ」


ロシアの現在のクラシック音楽界を牽引する指揮者、ヴァレリー・ゲルギエフについての本。本というよりは、60ページ強のブックレット。ゲルギエフの生まれからの評伝と、本人インタビューから見える音楽観が書かれている。ゲルギエフは生まれはモスクワだが、成長期を北オセチアのウラジカフカスで過ごす。自身のアイデンティティはロシア人ではなく、オセット人。スケールが大きく堂々としたその音楽は、たしかに北オセチアの険しい山々とつながっているのかもしれない。それに関連して、海の表現はあまり評判が良くない(p.9)。

ゲルギエフが偉大であるのは、単に音楽の解釈ではない。そのリーダーシップ、統率力、企画力が優れている。これは軍人だった父親から受け継ぎ、父親がゲルギエフ13歳のときに早逝したことで培われたのかもしれない(p.6f)。ともあれ、こうした統率力が、自身が拠点としたマリインスキー劇場で発揮されている。ゲルギエフによるマリインスキー劇場の改革期は、ちょうどソ連崩壊の時期に当たる。劇場も政府の支援のみではなく、自立を求められた。ゲルギエフはマリインスキー劇場を占めていた、官僚主義、惰性と戦う(p.30f)。白夜祭を初めとする音楽祭でサンクトペテルブルクを音楽の都として復活させていく。こうした総合プロデューサーとしての働きこそ、ゲルギエフの凄さを発揮するところ。個人的にはこの辺りをもっと知りたいが、この本には例えば楽団員側のインタビューなどはない。

ロシアの音楽は特にソ連期では政治に翻弄された。プロコフィエフやショスタコーヴィチがその典型。ゲルギエフはそうした政治的なものの覆いを取って、音楽そのものに向き合おうとしている。それが知られていないロシアオペラであったり、初版へのこだわりにある。サンクトペテルブルクでのワーグナー、ドイツでのショスタコーヴィチ7番といったタブーに挑戦したのも音楽そのものへの志向があってこそだろう。
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