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キース・デブリン、ゲーリー・ローデン『数学で犯罪を解決する』


実社会で数学がどのように使われるかを平易に書いた読み物。もともとは、アメリカで放映されていた、数学者が犯罪捜査に関与して数学を使って犯人を割り出していく"NUMB3RS"というドラマの副読本。実際にドラマのストーリーの数学的部分の監修をしていた人物と、こうした数学読み物を多く書いている人物による共著。ドラマの解説本だが、特にドラマを見たことがある必要はない。ドラマ自体は、日本で言うと『ガリレオ』みたいなものだろう(あちらは物理学だが)。

それなりの分量に渡って様々な数学の応用例が出てくる。統計やデータマイニング、異常検知といったところから、画像処理、暗号理論、ネットワークグラフ、オペレーションズ・リサーチ、リスク評価とゲーム理論など。単純に数学的結果が書いてあるのではなく、使われている理論やアルゴリズムの初歩的解説も行われている。とはいえ、あくまで軽い読み物としてなので、きちんとした解説ではなく雰囲気が分かる程度。

面白かったのは、例えば画像再現でエッジを部分を再現するもの(p.99-104)。不鮮明な画像かを画像処理により鮮明化する。本書では、画像再現で腕のバラの刺繍を再現し、ロス暴動の犯人逮捕につなげた例が出ている。また、ベイズ統計を用いた、アメリカ軍のリスク評価のシステム「サイト・プロファイラー」でペンタゴンへの攻撃という予測が2001年に出ていたが、人間が例外的な結果として排除していたこと(p.113-115)。航空機の搭乗客からテロリストを発見するシステムCAPPSの不備を、MITの学生が期末レポートで単純な確率計算で指摘していること(p.254-250)なども面白い。

最後の方にはドラマを離れて、裁判において数学が証拠として採用されるケースを扱っている。正直、犯罪捜査における数学よりもこちらのほうが面白い。数字を見せられていると人は客観的なものとして扱ってしまい、専門家でなければ詳しくその根拠を問いただすことはない。裁判において数学を証拠として用いるには、かなり慎重であるべきだ。例えば、独立事象ではないのに同時確率を単純に各事情の確率の積で求めている事例などがある(p.258f)。また、「訴追者の誤謬」という事例が紹介されている(p.262-265)。無作為抽出された人物が犯人と同じ特徴を持つ確率がいかに低くても、それはその人物が犯人かどうかの確率とは一致しない。その他にその特徴を持つ人物が母集団にどれくらいいるのかの情報が必要だ。

アメリカの論理哲学者チャールズ・サンダース・パースが父親のベンジャミン・パースとともに、署名の同一性について統計学的議論を行っている。裁判において、各特徴量が一致する確率を計算して、事例の署名はあまりに一致しているので写し取ったものに違いないと結論している(p.266-271)。小ネタとして面白い。

全般的に様々な話題が次々に登場し、数学的内容としてはあまり深くない。読み物だからこれでよいのだろう。いまいちに感じるのは、こういう本に対する自分の関心が薄くなっているのだろう。
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