Entries

ピーター・ティール、ブレイク・マスターズ『ゼロ・トゥ・ワン』


本当に社会のためになるのは、これまでと「違う」ものだ。それが新たな市場の独占を可能にし、企業に利益をもたらす。最良のビジネスは見過ごされがちで、たいていは大勢の人が手放しで賞賛するようなものじゃない。誰も解決しようと思わないような問題こそ、いちばん取り組む価値がある。(p.220)

既存の発想を超え、社会に価値をもたらすには。それを可能にするのはテクノロジーだ。テクノロジーとは、以前よりも少ない資源で多くの成果を可能にする。新しいものやより良いものを生み出すのは人間だけだ(p.20)。新しい成果がグローバリゼーションで地域的に広まっていくのは、水平的進歩であって1がnになるものだ。テクノロジーは、垂直的進化として0から1を生み出す(p.24-26)。

0から1を生み出すには、周りが何をやっているかを気にしても仕方がない。シリコンバレーの起業家は、ドットコム・バブルの後遺症を引きずっている。それは4つの教訓とされている。少しずつ段階的に前進すること、無駄なく柔軟であること、ライバルのものを改良すること、販売ではなくプロダクトに集中すること(p.40-42)。著者はこうしたシリコンバレーの常識を否定する。

段階的に柔軟に進むこと、それはリーンであることと言われる。だがリーンであることでは、0から1は生み出せない。柔軟で小幅な改善でなく、成功を実現するための野心的で壮大な長期計画が必要だ。「MVP」なんていうちっぽけな考えは捨てるべきだ。明確なで壮大な計画のある企業はかならず過小評価される。それは我々が未来をランダムだと見る世界に生きているからだ(p.111-114)。1982年以降のアメリカは、未来は見通せずランダムだが楽観的に見る、あいまいな楽観主義のなかにいる。あいまいな楽観主義とはやや捉えにくいが、例は生物学的進化だ。進化は確率的であり見通せないが、進歩する(だがこれは、進化の結果は常に良いものだと仮定しているのではないか)。ちなみに1950-60年代のアメリカは明確な楽観主義。現在の中国は明確な悲観主義。そして現在のヨーロッパ(とたぶん日本)はあいまいな悲観主義のなかにいる(p.109)。

ライバルのものを改良すること、それは競争にこだわることだ。破壊的disruptiveという言葉が流行っているが、これは競争に巻き込まれ、破壊される既存企業からの視点にすぎない。だが、「本当に新しいものを作りたいなら、古い業界を意識するより、創造に力を注ぐほうがはるかに有益だ」(p.85)。スタートアップは破壊にこだわるべきではない。競争とは、イデオロギーだ。競争は必要不可欠なものでも、正当化されるものでもない。競争はそもそも、企業の利益を破壊してしまう、反資本主義的なものだ(p.143)。競争に勝とうとするのではなく、誰もやっていない領域で独占企業となることを目指すべきだ(p.58-60)。独占企業の特徴は次の4つからなる。プロプラエタリ・テクノロジー、ネットワーク効果、規模の経済、ブランド(p.74-81)。

いいプロダクトを作っていれば売れるはずだというのはただの思いこみだ。おたくたちgeeksは営業マンが嫌いだ。しかしプロダクトのターゲットが誰で、どうやって売るかを考えなければならない。結局は誰もが、営業に影響されるのだ(p.170-186)。

0から1を生み出すにはどうしたらいいか。ポイントは隠れた真実。隠れた真実にこそチャンスがある。ありふれたもの、価値の無いものには意味がない。隠れた真実は自然についての真実と人間についての真実の2つに分かれる。自然の真実は主に、科学者が発見する。人間の真実はあまり重要だと思われていないが、そうではない。これら真実は見ている人が他にいない重要な領域に見つかる。例えば、物理学専攻はハーバードを始め多くの大学にある。占星術専攻はないが、これは重要な領域ではない。栄養学はどうだろう。ハーバードには栄養学専攻はない。隠れた真実が見つかるのはこういうところだ(p.142-144)。

他にはスタートアップの運営のヒント、次世代エネルギー、機械は人間の職を奪うのでなく補うのだという話(p.190-201)もある。痛快なテンポで進む本なので引き込まれるが、ティールの話なのである程度は極端な話として割り引いて受け取っておく。
スポンサーサイト
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://exphenomenologist.blog100.fc2.com/tb.php/847-6deb7bea

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する