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宮地ゆう『シリコンバレーで起きている本当のこと』


朝日新聞記者によるシリコンバレーのレポート。新聞に連載されていたもののまとめのようだ。そのためか、記述のレベルはかなり易しい。だが深いところには入り込んでいない。現地在住者のレポートであるが、ほとんど日本にいながらでも手に入る情報だ。現地メディアで話題になっていることをなぞった二次ジャーナリズムのように見える。独自の視点からの論点掘り起しは見られない。歴史や文化に踏み込むでもなく、技術に明るいでもない。

話題はシリコンバレーのベンチャーの成功、それがもたらす貧富の差、既存社会(自治体や国家)との軋轢など。いくつかの話題がバラバラに出てきて、あまり統一感は無い。貧困問題の視点はいかにも朝日新聞っぽいもので、シリコンバレーの繁栄に反して道路補修や貧困対策などの行政サービスに滞る自治体の姿が描かれる(p.80-87)。また、本書ではなぜかシアトルもシリコンバレーに入れられてしまっているが、New York Timesが載せたアマゾンの労働環境批判に窺える内容が、日本ならよくある労働環境だと指摘している。従業員の会社への囲い込みや忠誠の強制などで、日本企業化しているのではないかという指摘(p.42-48)は面白いかも。

とはいえ記述の浅さがうかがえるのは、例えば貧困問題に対して、どういう解決が模索されているのかなどがフォローされていないこと。Yコンビネーターによる最低所得補償の試みや、フェイスブックのザッカーバーグCEOによる慈善事業としての教育・医療の充実の試みが取り上げられているが、それらは批判の枠内にある。後者は社会保障を用意したのが貴族であったヴィクトリア朝時代に比されていて、必要なのはそうした歴史的視点だろう。また、iPhoneのロック解除を巡るアップル対FBIの事案は、FBIがイスラエルの会社の技術でロック解除に成功したことをなぜ書いていないのだろう(p.145-152)。本書の記述ではFBIが引いたように見えてしまう。技術に明るくないことはこうしたところに窺える。

軽い現地レポを読むように読めるが、これではとても「本当のこと」ではない。そもそも「本当のこと」といった題名をつける時点であまり信用ならない。
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