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峰如之介『なぜ、伊右衛門は売れたのか。』


サントリーのメガヒット緑茶飲料である伊右衛門の誕生ストーリー。短い本であるし、記述はジャーナリスティックで簡潔。あまり商品開発の深いところは伝わってこないが、身近な商品の開発秘話が聞ける。

話題の中心となっているのはブランドマネージャーの沖本直人氏、商品開発の牧秀樹氏、デザイナーの水口洋二氏といったメンバー。彼らがどんな状況で、どんな想いで伊右衛門を作り出していったがか分かりやすく書かれている。例えば伊右衛門の開発プロジェクトは、緑茶飲料の開発プロジェクトが既に別にあったなかで急遽用意された。しかし定量的な3Cに基づくデータ分析に支えられた、熱意に基づいた事業部長向けプレゼンの様は圧倒的で、本書のハイライトの一つ(p.58-68)。このプレゼンの段階で、既に福寿園との連携まで掲げている。当の福寿園に提携交渉に行くのは、このプレゼンが終わって開発プロジェクトが承認されてからだ。ちなみに、最初の提携、および創業者名の「伊右衛門」を商品名とするには福寿園側に相当の議論や逡巡があったと思うが、福寿園側の話は少ない。おそらく取材対象でないのだろう。

伊右衛門プロジェクトは、前回の失敗からの再起をかけたプロジェクトだった。失敗したのはプーアール茶をメインにした「熟茶」というもので、たしかに聞いたことが無い商品。発想が完全にプロダクトアウトなのが目につく(p.157f)。しかしこの熟茶の開発からは、後に伊右衛門の開発で特徴となる無菌充填生産方式が生まれていて、これ以外にも失敗は生かされている(p.125f ,171-175)。

伊右衛門は100年続くブランドを目指していると言う。サントリーと言えば印象に訴えるインパクトある宣伝広告が特異だが、伊右衛門ではあえてインパクトを追わないCM作りをしている(p.200-202)。また本書の冒頭にある京都でのカフェ展開など、一過性の広告ではなく多様な商態を模索している(p.41-44)。商品パッケージでも、最初は老舗を感じさせる限りなく簡潔なデザインを採用した。普及してからはやや目立つように、ロゴや文字を追加するなどしている。これはユーザーとの距離感を微妙に調整するデザイン・チューニングだという(p.222-228)。
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