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小川さやか『「その日暮らし」の人類学』


著者はタンザニアを調査フィールドとする文化人類学者。タンザニアの人々の生き方から、その日暮らしで生計を立てる人々について語る。著者はこうした人々の経済から、先進国諸国で規範とされるような経済の姿とは違う経済のあり方を模索している。

私たちの社会では、未来に起こることを予測し、それに向かっていま準備をしていくという未来優位の考え方が支配的である。また、技術や知識を蓄積し、活かしていくという生産主義的・発展主義的な人間観がある(p.24-26)。著者がその日暮らしの経済によって明らかにしようとしているのは、こうした支配的な経済秩序に対するもう一つの「インフォーマル経済」だ。こうしたインフォーマル経済は地下経済というよりも、オルタナティブな社会や経済の可能性を拓く(p.214)。

本書ではこうしたインフォーマル経済に対する既存の分析との対峙が多く、やや抽象的で読みにくい箇所もある。基本的にはタンザニアの人々とのエピソード、また彼らの仕入先となる香港、中国本土が舞台。分量の問題もあり、前著『都市と生きぬくための狡知』にあったような詳細で生き生きとしたような記述は少ない。抽象的な経済論をするか、人々の具体的な経済の姿を明らかにするか、どちらかに集中した方が良かったのではないか。

その日暮らしの経済が存在するのは未発達であるからではない。それはその日暮らしという生き方が最善の生存戦略になっているから。経済の環境が極めて不確実であり、変化が激しい。そのため着実に準備計画してビジネスを行おうとしても、環境の変化により意味がなくなってしまう。こうした状況では、詳細な計画を作るよりも、とりあえず試しにやってみて、稼げないとわかったらビジネスを変えるという戦略が合理的だ(p.84)。タンザニアの都市住民にとって、ビジネスのアイデアとは一歩一歩築いていく継続的なものではなく、状況と自分の資源に応じて偶然に現実化するものなのだ(p.63-65)。

著者はこうしたインフォーマル経済の姿を、主流の資本主義経済とは異なるものと考えている。しかしこの対峙の仕方には違和感を抱いた。というのも私には身近な、現在のITベンチャーのビジネスのやり方と、タンザニアの都市商人の間に近しいものを感じたから。先端の情報技術の変動は激しく、ベンチャーが置かれている経済環境は極めて不確実である。新たな技術が次々と登場し、それまでできなかったことが突然できるように環境が激変する。 こうした中での生存戦略はとりあえずやってみるというものになる。綿密な計画を立ててビジネスを遂行するのではなく、ビジネスプロトタイピングやアジャイル、PoCといった、品質よりもスピードを重視するような動きがとられる。稼げないと分かったらビジネスをピボットするというリーンスタートアップの考え方には、タンザニアの都市商人に共通するものが見える。必要なものはある分野に特化した専門性ではなく、その都度の環境に応じて適用できる多用途のリソース、すなわち人脈、資本、専門的な技術をその都度理解できるような自然科学・エンジニアリング・プログラミングの基礎素養である。あるビジネスに特化していることではなく、稼げる商材を見出すビジネスセンス、人脈、対人関係のスキル(狡知)が鍵となるタンザニアの都市商人となにか共通しないだろうか。

というわけで著者の問題設定が私にはあまり共有できず、モヤモヤとした読書となった。タンザニアの都市商人にある経済の姿は、ITベンチャーのビジネスと組み合わせで考えると何かまったく違うものを提示してるのかもしれない。「インフォーマル経済」で言い表そうとしているものは、先進国の資本主義経済では忘れられてしまったものなどではなく、実はまさにその核心で動いているものかもしれない。

ちなみに「その日暮らし」という単語がきちんとあり、題名にも入っているのに、本文では”living for today”という書き方で通されている。これは何故なのだろう。
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