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北野宏明『Dr.北野のゼロから始めるシステムバイオロジー』


著者が開拓してきたシステムバイオロジー(Systems Biology; 英語表記はシステムが複数形)についての入門的解説。システムバイオロジーは1990年代から提唱されている。生命科学の研究では、遺伝子やタンパク質といった「モノ」それぞれを相手にする研究がメインとなってきた。こうした研究はそれらを含むシステムの動態という、物理的具体性を伴わない「コト」の研究への拡張が考えられる(p.13)。

タンパク質などを構成要素とするシステムがどのように振る舞うかを研究しようとするのが、システムバイオロジーとなる。その方法論の特徴は計算モデルの利用だ。遺伝子やタンパク質の現実の動きを、計算モデルとしてモデル化し、in silicoでのシミュレーションという実験を組み合わせる。in vitroやin vivoでの実験結果と、in silicoでのモデルからの予測を対照させて進む。計算モデルを重視する点ではバイオインフォマティクスと類似している。著者によれば、例えばバイオインフォマティクスではある現象を引き起こす遺伝子が、どのように発現するが分析される。もしさらに、この発現に複数の遺伝子が関わるのだとすると、遺伝子発現制御ネットワークの同定や分析といった、システムバイオロジーのアプローチが必要とされる(p.25f)。

また生命現象をシステムとして扱う点では、複雑系のアプローチとも似ている。しかし自己組織化などの複雑系による生命現象の説明は、大抵のところ単一の組織に関するもの。生存と子孫の反映を評価関数とする、進化的選択や最適化といった視点を取り入れることで、複雑系の研究との違いをうたっている(p.33-35)。

すなわち生命現象をなす各要素からなるネットワークをモデル化し、モデルによる予測と実際の現象を並行して検討するアプローチがシステムバイオロジーとなるだろう(p.146f)。このアプローチは、例えばGEが提唱しているDigital Twinの考えに近いものを感じる。とすれば、モデル上での予測の高度化は研究の進展に大きく寄与する。予測の高度化を人工知能と呼ぶとすれば、生命科学は人工知能により置き換えられるのではなく、人工知能と人間の共同作業により発展する(p.141f)。著者はこの姿をAdvanced Intelligenceと呼んでいる。例えば機械学習によって、人間が理解できないほどの特徴量の組み合わせによる症例や薬効の分類が可能になる。ここからは、異なる薬の組み合わせで新たな効果を生むコンビネーションドラッグの可能性が拓ける。膨大な組み合わせからの有効なものの発見は、機械学習にふさわしい。製薬会社は創薬一辺倒から、患者の診断に基づいて複数の薬を組み合わせるサービス産業への展開が予想される、といった展開が述べられている(p.130-134)。

他には創薬プロセスのフェーズ分け(p.59)が役に立った。基本的なものだろうが、標的分子の選択と検証、リード化合物の発見・最適化、前臨床開発、臨床開発、商品化からなる。また計算モデルにおける、モデルリスクとパラメータリスクの区別(p.68-70)。前者はモデルの表現力が足りずにデータのパターンを学習できないリスク。後者はパラメータが複雑すぎて適切な最適化ができないリスク。つまり書かれていないが、underfittingとoverfittingのリスクであり、biasとvarianceのトレードオフ。遺伝子発現のロバストネスから、モデルリスクではなくパラメータリスクであると特定する具体例が述べられている(p.86-94)。

最後に、孫引きだがアーサー・クラークの印象的な言葉。高名で老齢の大家が何かが不可能だといったときには、それはたいがい誤っていて実際は可能である。それまでの研究常識で見えなくなっているところに、新しい成果のチャンスはある。
When a distinguished but elderly scientist states that something is possible, he is almost certainly right. When he states that something is impossible, he is very probably wrong. (A.C. Clarke, "Profiles of the Future", 1962)
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