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大湾秀雄『日本の人事を科学する』


人事経済学や組織経済学の観点から、人事領域においてどのようなデータ活用が可能を書いた本。著者の主催する人事情報活用研究会で、各企業が実際に自社内の人事データを分析した事例が多数載っている。人事分野はHRtechとして徐々に盛り上がりつつはあるが、データ分析からは遠い世界になっている。こうした状況で、人事分野で何ができるかをかなり具体的に書いており、参考になる一冊。

人事のデータ活用が遅れている理由として著者は以下の理由を挙げている。人事部の人は文系が多く、統計リテラシーが低い。人的資源管理論は定性的な議論が主になっている。日本の企業では新卒採用の画一的プロセスが主だったため、経験や勘がさほど大きな間違いを生んでこなかった(p.21f)。それ以外にも、人事領域は人によって人を判断する定性的な判断、あまり客観的ではない判断が散見されていて、教師ラベルをきちんと定義するのが難しいこと。データそのものが個人情報なので外部にはなかなか分析を委託できないが、かといって内部ではその分析する当該の人や関係者がまさにデータに含まれてしまっていること、などもあるだろう。だが企業の人事データには統計資料にはない個人レベルの情報が豊富。これを活かさない手はないだろう(p.39)。

そのため、導入部のあとの第二章ではデータ分析のやり方について概観している。本書で扱う手法は多変量回帰分析のみ。データ件数も500件程度がよく見られる。大量のデータを用いた非線形モデルでの機械学習などは本書の範囲外。まずは読者のレベルを想定して線形モデルの範囲内にとどめたのだろう。とはいえレベルは低くはない。例えば単純に男女での差を比較するのではなく、勤続年数や出身大学などの特徴量を説明変数として入れてコントロールすることの必要性を始め、統計的因果推論の考えが多く用いられている。それ以外にも線形回帰モデルを重視する理由としては、一つ一つの要因が目的変数に与える効果が偏回帰係数から分かり、費用対効果の高い施策を選択できるというのも挙げられる(p.180)。要は説明力と予測力のバランス。

扱われている話題は、男性と女性の賃金や管理職昇進スピードについて、長時間労働や育休取得の働き方改革、優秀な人材の採用、年功賃金と離職の防止、中間管理職の生産性と貢献度の測定、定年延長と介護離職について。こうした問題について、社内で取っている施策が果たして効果を生んでいるのかどうかをどのように測定・評価すればいいかが論じられる。人事領域の施策は、何かを目指して整備実行したとしても、結果測定をしていないケースが驚くほどある。

人事領域においても基本的にはA/Bテスト、あるいはランダム化比較試験(RCT)がなされるべきだろう。たしかにRCTは施策を受けられる人と受けられない人の不平等が発生する。しかし施策が良ければ、それは広範囲に展開されるのだから、結局のところ施策の利益を受けるのは全員だ。不確実性の高い施策を一気に実行して、損害や混乱を招くリスクを負うよりはマシではないか。例えば働き方改革において、働き方の改善に向けた研修や施策の対象者を応募すると、もともとそれに関心のある人が参加してきて対象者にバイアスが生まれる内生性の問題がある。在宅勤務の有効性を実験で検証したCtripの例は、とても示唆にあふれる(p.125-130)。

定年延長と介護離職の問題は、自分の関心から外れていることもあるが、企業内のデータ分析というより、政府統計を使ったかなり一般的な話に終始している(p.211-231)。多変量回帰分析もこの章では出てこない。

私の関心からは採用施策が面白かった。著者は企業の採用力を3つに分けている。企業知名度を上げ必要な人材に自社を知ってもらう採用マーケティング力、多くの企業の中から自社を選んで応募してもらう採用差別力、応募者の中から自社に必要な人材を正しく選択するスクリーニング力。採用施策の分析にあたっては、この3つの力に分けてそれぞれ分析することが有効。多変量回帰による分析では、社会全体の就職内定率を説明変数とした回帰式の偏回帰係数から見ることができる(ただし性別、勤続年数、職種など多くの説明変数を入れて影響をコントロールする)。つまり、採用人材の入社後の評価を目的変数としたときの就職内定率の偏回帰係数が負であれば、内定率が上がるにつれ優秀でない人材が集まっているということであり、採用マーケティング力と採用差別化が弱いことがうかがえる。離職率を目的変数としたときに就職内定率の偏回帰係数が負なら、不況で内定率が下がったときに採用はできても不本意に採用された人材が多くなるということであり、採用差別化とスクリーニング力がないことがうかがえる(p.142-148)。ただし採用においては、採用後の評価は(当たり前ながら)採用人材に対してしか存在しないので、サンプルバイアスがあることに何度も注意が向けられる。

採用についてはいくつか面白い研究結果がある。面接結果と入社後のパフォーマンスはあまり関係ないこと。応募者に何を聞くかを面接者に任せるのではなく、定型的な質問を全応募者に問うのが良いこと。学校の成績による入社後の評価への影響は入社後3年程度で消えること。

入門的な本なのでレベルが抑えられているのが私には物足りないが、人事領域でのデータ分析の本として参照できる良い本。この領域でもどんどん普及して、非客観的な人事評価を追いやってほしい。
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